【行政情報】文化審議会著作権分科会政策小委員会報告書(素案)~レコード演奏・伝達権/今後のデジタル教科書の在り方を踏まえた、著作物等の利用の円滑化と権利保護を両立する方策
- 那住行政書士事務所

- 3 日前
- 読了時間: 8分

令和8年1月9日、文化審議会著作権分科会政策小委員会は今春に向けてまとめる、報告書の素案をまとめました。また、報告書に対する意見募集もはじまっています。
今回の報告書では
・DX時代におけるクリエイターへの適切な対価還元方策に係る論点として「レコード演奏・伝達権」について重点的に審議
・今後のデジタル教科書の在り方を踏まえた、著作物等の利用の円滑化と権利保護を両立する方策
以上2点について審議が行われています。
▼著作権分科会 政策小委員会の審議状況
概要
本報告書は、
DX時代における著作物利用の円滑化と、クリエイター(特に実演家等)への適切な対価還元の実現を目的として、今後速やかに制度化すべき施策を整理したものです。
令和5年著作権法改正(未管理著作物裁定制度など)後も継続して議論されてきた論点のうち、特に
・レコード演奏・伝達権の創設
・今後のデジタル教科書の在り方に対応した権利制限の見直し
について、制度導入の方向性と具体像を示しています
主な枠組みと取組方向
レコード演奏・伝達権について(報告書の中心)
(1)現行制度の問題点
日本では
著作者には「演奏権・公衆伝達権」がある
実演家・レコード製作者には
放送・有線放送に対する二次使用料請求権のみ存在
店舗・施設・業務用BGM等での再生・伝達については、実演家等に一切対価が還元されていない。
その結果、
海外で日本の楽曲が使われても相互主義により還元されない
国際的に極めて例外的な制度状況(OECD諸国で日本と米国のみ未導入)
という構造的問題が生じていると整理されています。
(2)制度創設が求められる背景
国際的には142か国・地域で導入済み
店舗・宿泊業・飲食業等での音源利用が一般化
日本音楽の海外人気拡大にもかかわらず、国内実演家の収益は減少
CD市場の縮小、サブスクの「バリューギャップ」、人材不足の深刻化
→ 実演家等の持続可能性確保と音楽産業振興のため不可欠と結論付け。
(3)制度の基本的考え方
新たに「許諾権」は与えない
二次使用料請求権(報酬請求権)として創設
非営利・無料利用は著作権と同様に権利制限の対象
権利者と利用者のバランス、利用萎縮の回避を重視
(4)法制度の具体イメージ
① 権利内容
商業用レコードの
公の再生
公の伝達に対し、実演家・レコード製作者が二次使用料を請求できる権利。
② 権利行使方法
個別行使は非現実的なため→ 指定団体制度を採用
文化庁長官が指定する団体のみが行使
③ 使用料決定プロセス
二次使用料規程を作成・公表
利用者代表との協議義務
不調時は文化庁長官の裁定制度
④ 導入スケジュール
制度準備・周知・調整のため→ 約3年間の準備期間を想定
(5)運用上の重要ポイント
小規模事業者への配慮(減免・免除)
包括徴収(元栓徴収)の活用
電子決済・デジタル技術の積極活用
分配の透明性・説明責任の確保
国民・利用者への丁寧な周知
デジタル教科書と著作権制度の見直し
(1)問題意識
今後、デジタル教科書は
紙と同一内容に限られない
動画・音声等を含む教材へ拡張
教科書としての法的位置づけも強化される方向
→ 現行の権利制限(33条・33条の2)では不十分。
(2)見直しの方向性
デジタル教科書における
実演・レコード利用も権利制限対象に
検定・採択・無償給与に伴う
複製・公衆送信も包括的に権利制限
補償金制度の整備(内容・用途・態様を考慮)
著作者人格権への配慮は維持
【本報告書への感想】
本報告書は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、著作物の創作・流通・利用の在り方が大きく変化する中で、著作物の円滑な利用と権利者への適切な対価還元をいかに両立させるかという課題について整理したものです。特に、「レコード演奏・伝達権」の創設と、今後のデジタル教科書の在り方を踏まえた著作権制度の見直しという二つの重要なテーマについて、具体的な制度設計の方向性を示している点に大きな意義があります。
まず、レコード演奏・伝達権についてです。現行の著作権制度では、商業用レコードが店舗や施設等で公に再生・伝達されているにもかかわらず、実演家やレコード製作者には、原則として対価が還元されていません。この点は、国際的に見ても例外的な状況であり、OECD諸国の大多数が既に同様の権利を導入していることを踏まえると、日本の制度は長年にわたり不均衡を抱えてきたといえます。さらに、日本の音楽が海外で高い評価を受け、利用が拡大しているにもかかわらず、相互主義の関係から、その収益が国内の実演家等に十分に還元されないという問題も指摘されています。
本報告書は、こうした課題を踏まえ、レコード演奏・伝達権を「許諾権」ではなく、「二次使用料請求権」として創設することが適当であるとしています。これは、音楽の利用そのものを過度に制限するのではなく、商業的な利用によって生じる利益の一部を、実演家やレコード製作者に適切に分配するという、バランスの取れた制度設計です。また、指定団体制度を通じた集中的な権利行使や、利用者代表との協議、文化庁長官による裁定制度の活用など、利用者側の負担や混乱を最小限に抑えるための仕組みも丁寧に検討されています。小規模事業者への配慮や、段階的な導入の必要性にも言及されており、実務への影響を現実的に見据えた提案であると評価できます。
次に、デジタル教科書をめぐる著作権制度の見直しについてです。今後のデジタル教科書は、従来の紙の教科書と同一内容にとどまらず、動画や音声、実演を含む多様なデジタルコンテンツを内包することが想定されています。このような変化に対応するため、本報告書では、教科書に関する権利制限規定を見直し、実演やレコードの利用についても適切に権利制限の対象とする必要があると指摘しています。これは、教育の公共性を確保しつつ、権利者の正当な利益にも配慮するものであり、教育DXを支える基盤整備として重要な意義を持つものです。
総じて本報告書は、著作権制度を単なる「規制」として捉えるのではなく、創作と利用の好循環を生み出す社会的インフラとして再設計しようとする姿勢が一貫しています。実演家等への対価還元を強化し、教育分野のデジタル化を後押しするこれらの改正は、我が国のコンテンツ産業と教育の持続的な発展に資するものであり、その基本的方向性については、積極的に評価し、支持されるべき内容であると考えます。
―小規模事業者への配慮について
「レコード演奏・伝達権」の創設に関して、行政書士として日常的に中小事業者や個人事業者から相談を受ける立場としては、本制度の導入にあたって、国民や事業者への周知・説明が極めて重要であると強く感じます。レコード演奏・伝達権は、既存の音楽著作権制度や著作権等管理事業者による仕組みと併存することになるため、「何に対して、誰に、どのような支払いが必要となるのか」が十分に整理されない場合、事業者に過度な不安や誤解を生じさせるおそれがあります。制度開始に先立ち、分かりやすいガイドラインやQ&A等を通じた丁寧な情報提供が行われることを強く期待します。
小規模事業者への配慮については、実務上きわめて重要な論点であると考えます。飲食店や美容室、個人経営の小売店など、地域に根差した小規模事業者にとっては、新たな制度への対応そのものが心理的・事務的負担となり得ます。減免措置や段階的導入の考え方について、可能な限り具体的かつ明確な基準が示されることが、制度への理解と納得を得る上で不可欠であると考えます。
―指定団体による徴収・分配について
指定団体による徴収・分配については、その透明性と説明責任が制度の信頼性を左右すると考えます。使用料の算定方法や分配の考え方、国内外の収支状況などについて、利用者や国民に対して分かりやすく情報開示が行われることが、制度の定着にとって重要であると考えます。
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