行政書士とコンテンツ法務(総論)
- 那住行政書士事務所

- 8月30日
- 読了時間: 6分
更新日:8月31日

はじめに
行政書士の業務と聞くと、会社設立や許認可申請、相続や外国人の在留資格といった分野を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし近年、コンテンツ産業やクリエイティブ業界の発展に伴い、著作権をはじめとする知的財産法務のニーズが急速に高まっています。
この背景を踏まえ、当事務所では本ページを起点として、行政書士と知財法務の関係を整理し、その意義を共有したいと考えています。
今回は総論的に、行政書士とコンテンツ法務の関係について記載したいと思います。
ー行政書士とコンテンツ法務の接点
行政書士法上、行政書士の業務は以下のように定められています。
(業務) 第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。 2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。 第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。 一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。 二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。 三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。 2 前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる。 第一条の四 前二条の規定は、行政書士が他の行政書士又は行政書士法人(第十三条の三に規定する行政書士法人をいう。第八条第一項において同じ。)の使用人として前二条に規定する業務に従事することを妨げない。
法律の条文ですので、多少まどろこっしい書き方になっていますが、少しかみ砕くと以下の業務に二分できます。
・他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類の作成(及び提出する手続き等)
・権利義務又は事実証明に関する書類の作成
「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類の作成」とはつまり、「行政手続き」ということになりますが、この分野に関する著作権や知的財産との接点は、具体的には以下のような業務になります。
文化庁における各種著作権登録手続(出版権設定、創作年月日の登録、著作者の実名登録、著作権移転登録、著作権質権設定など)
著作権者が不明な場合に利用可能な「裁定制度申請」(文化庁への利用許諾申請)
これらの手続は、権利者の保護と利用者の利便を両立させるための重要な制度です。行政書士が関与することで、クリエイターや企業にとっての負担を軽減し、安心してコンテンツを利用・流通させる環境を整えることができます。
また来年施行が予定されている、「未管理著作物裁定制度」においても、新制度を円滑に進めるためには、行政書士が適切なサポートができる体制を、整えるべきだと考えています。
「権利義務又は事実証明に関する書類の作成」については、ここには契約書、利用許諾契約、念書、合意書といった多様な文書が含まれ、当然ながら著作権や知的財産に関する契約書も対象となります。
例えば、次のような実務が挙げられます。
イラストや写真の利用契約書の作成・チェック
出版社と著者との出版契約に関する文案整理
映像や音楽の二次利用に関する合意書の作成
フリーランスクリエイターが委託業務を受ける際の契約支援
コンテンツが適切に流通するためには、適切な契約書等を作ることが不可欠です。行政書士の知見を活かし、適切なサポートを行うことで、コンテンツ産業に寄与することが可能です。
―なぜ今、知財法務が必要か
AI技術やデジタルプラットフォームの普及により、コンテンツが国境を越えて瞬時に流通する時代になりました。その結果、著作権やライセンス契約をめぐる問題は、以前にも増して複雑化しています。
生成AIが作成した画像や文章に著作権はあるのか?
SNSで共有される画像や音楽を利用する場合のリスクは?
海外の配信プラットフォームにコンテンツを載せる際の契約条件は?
こうした問題に直面するクリエイターや中小企業にとって、専門家の支援は不可欠です。知財を巡る紛争に発展した際の法律的なアドバイスは弁護士の分野ですが、契約書の作成や権利関係の整理、さらに行政への各種申請や登録支援は、行政書士が力を発揮できる領域です。
―行政書士が貢献できるポイント
行政書士が知財法務に関わることで、次のような貢献が可能となります。
契約の予防法務 不明確な契約条項をあらかじめ整備し、トラブルを未然に防ぐ。
中小規模クリエイター支援 大手企業ではなく、フリーランスや小規模事業者に寄り添い、実務的で使いやすい契約文書を提供。
行政との橋渡し 著作権登録、裁定制度申請、補助金申請など、行政手続と知財の交点で専門性を発揮。
教育・普及活動 勉強会やセミナーを通じ、著作権リテラシーの普及に貢献。
こうしたニーズに応えるためには、行政書士や知的財産に関わる行政書士を一人でもふやしていく必要があります。行政書士の新しい専門性を育てることは、コンテンツ業界全体の健全な発展に寄与することになると考えています。
ーまとめ
著作権や知的財産は、クリエイティブな活動を守り育てる基盤です。行政書士がこの分野に積極的に関与することで、クリエイターが安心して創作に集中できる環境を整え、コンテンツ産業に関与する事業者が新たな事業を展開する後押しができます。
筆者自身はコンテンツ産業に関与し約20年、行政書士業務に関わって12年となります。未来のコンテンツ法務を形づくることを考え、様々な発信を行っていきたいと思います。
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