ネットにおける誹謗中傷、”侮辱罪”について法務省が議論しているよ、という話(令和7年9月25日 木曜日)
- 那住行政書士事務所

- 9月25日
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ちょっとネットで話題になっていた話。
法務省が「侮辱」の事例をまとてくれた! ということで何かと思って調べてみたら、令和7年9月12日に「侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会(第1回)」が開かれて、そこに様々な資料が提出されたようでして。
侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会
第1回会議(令和7年9月12日)
配布資料1 参照条文〔PDF〕
配布資料2 令和4年刑法等一部改正法に係る衆・参附帯決議(侮辱罪関係)〔PDF〕
配布資料3 検討事項(案)〔PDF〕
配布資料4 侮辱罪の事件処理状況〔PDF〕
配布資料5 侮辱罪の事例集〔PDF〕
(リンク先はいずれも法務省のホームページ)
令和7年9月12日、法務省において開催された「侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会(第1回)」。令和4年に刑法が改正され、侮辱罪の法定刑が「拘留・科料」に加え「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」へと引き上げられてから、初めての包括的な検証の場として開催されました。
とりわけ注目されているのは、「インターネット上の誹謗中傷に適切に対応できているか」という点です。近年、SNSや掲示板での中傷を契機とする痛ましい事件が続いたことを背景に、社会全体が強い問題意識を持っている分野でもあります。
この検討会で配布された資料には、今後の検討課題、事件処理の統計、具体的事例集、さらには警察における取組状況が整理されており、施行後2年余りの運用実態が浮かび上がってきます。
検討会で論点とされる点は次の通りです。単に「処罰を強化すべきか否か」ではなく、被害者保護と表現の自由の調和を意識した包括的な検討が求められています。
・侮辱罪がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処できているか
・表現の自由その他の自由に対する不当な制約となっていないか(公共の利害に関する場合の特例の創設を含む)
・その他の論点として
ー被疑者特定に関する被害者の負担軽減
ー損害賠償命令制度の対象事件の拡大
◆事件処理の状況、具体的事例
本会議に提出された資料によれば、令和6年度で、侮辱罪の認知件数は393件。うち、インターネット利用は225件で実に57.3%に及んでいます。特徴的なのは、被害者が自ら開示請求や民事訴訟を経て加害者特定に至ったケースが16%存在する点です。警察の捜査と被害者の民事的努力が相互補完的に機能していることがわかります。
確定裁判の結果では、罰金10万円以上20万円未満が全体の7割以上を占めています。ネット事案では、科料(9,000円~9,900円)が多い一方、10万円前後の罰金も目立ちます
また、事件処理に要する期間は「6か月以内」が42%、「1年以内」が37%と、比較的速やかに処理される傾向があることも明らかになりました。
事例集には、路上での単純な悪口から、ネット上での深刻な人格攻撃まで多様なケースが列挙されています
―オフライン事例
路上で「大馬鹿」「恥知らず」と発言 → 科料9,900円
バス車内で「ばかが」と発言 → 科料9,900円
スーパー出入口で「デブ、ブス、妖怪はあっち行け」 → 科料9,000円
ーオンライン事例
掲示板に「ヤリマン(笑)」などと投稿 → 罰金10万円
SNSに被害者氏名と「害児」などと投稿 → 罰金10万円
掲示板に顔写真や住所を添付し中傷 → 罰金10万円~30万円
ネット事案は被害が広範囲に拡散しやすいことから、科料にとどまらず罰金刑(10~30万円)が科される例が多く見られます。
一方で、表現の自由や正当な批判の萎縮効果への懸念は根強いものがあります。特に、以下のような領域で線引きが難しくなります。
政治的・社会的意見表明:議員や公務員への批判が不当に処罰対象とならないか
企業評価・内部告発的投稿:公共性のある意見と中傷の境界が不明確
検討会では、「公共の利害に関する場合の特例」の創設が議題となっており、批判と中傷を峻別する制度設計が今後の焦点となります
―中小企業・個人事業主、作家らクリエイターへの影響を考える
経営者やフリーランスにとって、ネット上の評判は信用と取引に直結します。実際に事例集には、勤務先や会社名を挙げた誹謗中傷が多数含まれていました。
また作家・クリエイターの方々への影響も深刻です。創作活動においては、作品や人格を同時に攻撃されることが多く、精神的負担から活動休止に追い込まれるリスクも少なくありません。
いずれにしても、対応策としては、証拠保存(スクリーンショット・URL記録)、専門窓口への相談、発信者情報開示請求による特定などが重要です。
また、SNSではブロックやミュート、フィルタリング機能を活用し、心身への負担を軽減することも有効です。
正当な批評と違法な侮辱の線引きを理解し、批判は改善材料に、中傷は毅然と対応する姿勢が求められます。
制度的にも損害賠償命令制度の拡大などが検討されており、今後の議論が中小企業・個人事業主や、クリエイター保護の実効性につながることが期待されます。
―今後の課題。
今回の検討会を通じて見えてきた今後の課題は大きく三つに整理できます。
処罰範囲の適正化ー批判と中傷の線引き、公共性ある発言の特例整備。
被害者救済の実効性ー発信者特定の迅速化、損害賠償命令制度の拡大、刑事・民事のシームレスな連携。
社会的啓発「言葉の暴力」への意識向上、インターネットリテラシー教育の充実。
侮辱罪の厳罰化から2年余り。事件数の増加や科刑の分布を見ると、制度が一定の抑止効果を持ちながらも、不起訴の多さや表現の自由との衝突といった課題が鮮明になってきました。
今回の検討会は、単に刑罰を強化する議論にとどまらず、被害者救済と自由保障をどう両立させるかという社会的課題に挑むものです。
言葉が人を傷つける時代にあって、「自由」と「責任」をいかに調和させるか。今後の議論の行方を見守りたいと思います。
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