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【公正取引委員会】知的財産権・ノウハウ・データを対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査について~クリエイター・中小企業の知財は守られるのか



本欄で令和8年3月3日にご紹介しました、「知的財産取引適正化ワーキンググループ」の報告書。

【行政情報】知的財産の取引の適正化に向けた議論が進む。


この報告書を受けて、令和8年3月11日、公正取引委員会より

知的財産権・ノウハウ・データを対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査について


との発表がありました。



報告書の中身の分析は、先述の3月3日の記事をご覧ください。

本稿では、この報告から、クリエイター・中小企業の知財の観点から、あらためて知財を巡る競争政策について考えてみたいと思います。


2026年3月11日、公正取引委員会は「知的財産権・ノウハウ・データを対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査」を公表しました。


これは、先に公表されていた「企業取引研究会・知的財産取引適正化ワーキンググループ」での議論を踏まえたものです。一見すると技術分野の話のように見えますが、実はこの調査は、クリエイター、コンテンツ産業、IT企業、スタートアップなど、広い分野に影響する可能性があります。


今回の調査は、知的財産を巡る取引の実態を把握するため、91業種・約4万社を対象に行われました。回答した企業は6,973社に上ります。回答企業の多くは中小企業であり、日本の産業構造を反映した結果と言えるでしょう。


調査結果の中でまず注目すべきは、知的財産を保有している企業の割合です。特許や著作権だけでなく、ノウハウやデータを含めると、回答企業の54.8%が知的財産等を保有しているとされています。つまり、半数以上の企業が何らかの知的財産を持っているわけです。


ところが、その一方で、知財の管理体制は十分とは言えません。調査では、知財をチェックする社内担当者や外部専門家がいない企業が約50%という結果になっています。知財は持っているが、守る体制は整っていない。これは中小企業ではよく見られる構図です。

そして、この構造が取引上の問題につながっています。

調査では、納得できない取引条件を受け入れた経験がある企業が15.8%存在することが確認されました。理由として最も多かったのは、


・取引を断ると今後の取引に影響がある

・取引先が有力企業である

・条件について協議しても聞き入れてもらえない


といったものです。


いわゆる「優越的地位」の問題です。

大企業と中小企業の力関係の中で、知的財産の条件が一方的に決められてしまう構造があることがうかがえます。

またこのことは、企業と取引をする、個人クリエイターとの関係でも同じことが言えると思います。


具体的な事例も明らかになっています。

例えば、秘密保持契約(NDA)に関する問題です。調査では、NDAなしでの取引や、不利な条件でのNDA締結を強要された経験がある企業が7%存在しました。


また、ノウハウやデータについては、


・ノウハウの開示を強要された

・見積り段階で資料提出を求められた

・提供したノウハウを流用された


といった経験を持つ企業も確認されています。


さらに、知的財産そのものについても、


・無償譲渡

・無償ライセンス

・対価の一方的決定


といった問題が一定数報告されています。


これらは決して特殊な事例ではありません。むしろ、制作業務や共同開発、システム開発、コンテンツ制作などの現場では、よく見られる取引形態です。


例えば、コンテンツ業界では


・制作費の中に著作権譲渡が含まれる

・二次利用の条件が曖昧

・将来利用まで包括的に許諾させられる


といった契約も珍しくありません。今回の調査が重要なのは、こうした問題を単なる契約トラブルではなく、独占禁止法の問題として整理しようとしている点です。


公正取引委員会は、この調査を踏まえ、


・独占禁止法の指針の策定

・下請法(取引適正化法)の運用基準の見直し


につなげる必要があるとしています。


つまり今後は、知的財産の取引条件が「優越的地位の濫用」として問題視される可能性があるということです。

ここで重要なのは、今回の政策が単なる「クリエイター保護政策」ではないという点です。

公取委は、知財の適正取引を「イノベーション政策」として位置付けています。


知財やノウハウが大企業に安く吸い上げられてしまえば、中小企業の成長は難しくなります。その結果、日本全体の技術力や競争力も弱くなるという考え方です。


この発想は、近年の政策の大きな流れとも一致しています。政府の「知的財産推進計画」や「新しい資本主義実行計画」でも、知財取引の適正化は重要テーマとして取り上げられています。今回の実態調査は、その政策の土台となるものと言えるでしょう。


では、実務にはどのような影響が出るのでしょうか。

今後考えられる変化としては、


・著作権やノウハウの帰属の明確化

・二次利用条件の具体化

・データ利用範囲の契約明記

・対価の説明可能性の確保


などが挙げられます。


これまでのように、「制作費に全部含まれている」という曖昧な契約は、徐々に説明責任を伴うものになっていく可能性があります。


また、AI時代という背景も見逃せません。データやノウハウは、AI開発やサービス改善のための重要な資源になっています。企業間の力関係によってデータが一方的に利用される構造は、今後さらに問題視される可能性があります。


今回の調査は、その意味で「知財取引ルールの見直しの第一歩」とも言えるでしょう。


クリエイターや中小企業にとって重要なのは、単に「守られる」ことではありません。

自分たちの知財を資産として認識し、適切に契約条件を設計することです。知財は成果物の付属物ではなく、将来の価値を生む資産です。今回の公取委の調査は、その当たり前のことを改めて示したものとも言えるでしょう。


今後、公正取引委員会がどのような指針を示すのか。そして、それが実際の契約実務にどのように影響するのか。


今後も引き続き注視していきたいと思います。


※本記載は投稿日現在の法律・情報に基づいた記載となっております。また記載には誤り等がないよう細心の注意を払っておりますが、誤植、不正確な内容等により閲覧者等がトラブル、損失、損害を受けた場合でも、執筆者並びに当事務所は一切責任を負いません。


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