【行政情報】知的財産の取引の適正化に向けた議論が進む。
- 那住行政書士事務所

- 3月3日
- 読了時間: 8分

公正取引委員会・中小企業庁・特許庁を共同事務局とし、「知的財産取引適正化ワーキンググループ」において、知的財産の取引の適正化に向けた議論が進められています。
令和8年2月27日に開催された第4回委員会では、知的財産取引適正化ワーキンググループ報告書案のとりまとめがおこなわれました。
第4回
令和8年2月27日
1 知的財産権等に関する実態調査報告書(案)について
2 知的財産取引適正化ワーキンググループ報告書(案)について
【概要】
1.ワーキンググループは何をしているのか
本ワーキンググループは、公正取引委員会・中小企業庁・特許庁を共同事務局とし、企業取引研究会の下に設置された専門部会です。
その目的は、
知的財産権・ノウハウ・データの取引について、優越的地位の濫用規制を中心に取引適正化を図るための指針を策定すること
にあります 。
背景には、
価格転嫁政策(労務費転嫁指針)
骨太方針2025
新しい資本主義実行計画
知的財産推進計画2025
があり、単なる知財問題ではなく、
「賃上げ・成長戦略・イノベーション促進」の一環としての知財取引適正化
という位置付けです。
。
2.これまでの議論の経過
第1回
これまでの実態調査の整理
業種が製造業中心だった点の問題提起
新たな実態調査の実施決定
第2回
実態調査報告書の充実
指針策定の方向性議論
第3回
実態調査報告書(素案)
WG報告書(素案)
第4回
実態調査報告書(案)
本報告書(案)
つまり、
実態調査 → 事例分析 → 法的整理 → 指針策定の設計
というプロセスを経ています 。
3.問題意識の核心
WGが共有している問題意識は明確です。
中小企業の知財・ノウハウが無償又は低廉で吸い上げられている
成果物対価に知財部分が埋没している
データの帰属・利用範囲が曖昧
対価設定の選択肢が狭い
これを放置すれば、
競争格差の固定化・イノベーション阻害
につながるという認識です
【主な枠組みと取組方向】
以下、報告書案の枠組みを整理します。
Ⅰ.指針の位置付け
① 全業種対象の横断的指針
従来は製造業中心でしたが、今回の指針は
全業種対象
知的財産権に限定せず
ノウハウ・データまで射程
とする方向です。
② 既存指針との整理
既存の
知的財産利用指針
共同研究開発指針
スタートアップ指針
取適法運用基準
フリーランス法
との関係を体系的に整理する方針です。
Ⅱ.規範の明確化
独禁法・取適法・フリーランス法の適用関係を明示し、
予見可能性向上
未然防止
を図る構造です。
Ⅲ.行為類型ごとの整理
実態調査で確認された類型について、
独禁法上の問題点
参考となる行動
ベストプラクティス
を整理する方向です。
ただし、
唯一の解決策と誤解されないよう留意
する姿勢も明示されています。
Ⅳ.対価の問題(本報告書の核心)
1.成果物対価と知財部分の分離
工賃部分と知財部分を区別することを選択肢として提示
知財価値のゼロ評価を是正
という方向性が明示されています。
ただし、
一律分離を強制する趣旨ではない
業種特性に配慮
というバランス論が付されています。
2.対価設定方法の多様化
一時金
成功報酬型
レベニューシェア
など複数の選択肢を示す方針です。
ポイントは、
「こうあるべき」ではなく「選択肢の存在を示す」
という構造です。
Ⅴ.データの扱い
データについては、
NDA未締結
利用範囲不明確
帰属不明確
など従来論点に整理可能な部分が多いとしつつ、
マスデータの集積価値
AI学習利用
プラットフォーム化
といった新論点を今後注視するとしています。
過度な規制強化ではなく、
イノベーションとのバランス重視
が特徴です。
Ⅵ.契約ひな形・支援体制
新規ひな形を乱立させるのではなく、
中小企業庁
INPIT
文化庁
既存契約支援ツール
を引用し、活用を促す方向です。
Ⅶ.実効性確保
周知・広報
経済団体との連携
モニタリング
違反への厳正対処
を明記しています。
ここは本報告書の実務的重みを示す部分です。
【総括】
本報告書案は、
知財取引を「競争政策」「価格転嫁政策」「成長戦略」の中核に位置づけ直す試み
と評価できます。
特徴は三点です。
全業種横断型の指針創設
ノウハウ・データを含む広範射程
対価問題の明示的整理
そして全体に通底するのは、
規制強化一辺倒ではなく、競争力強化とバランスを取る姿勢
です。
本文書の分析
― クリエイター・コンテンツ産業へのインパクトとは ―
公正取引委員会・中小企業庁・特許庁が設置した「知的財産取引適正化ワーキンググループ」が、第4回会合で報告書案を示しました。クリエイターやコンテンツ産業にとっては見過ごせない動きです。というのも、今回の議論は単なる“知財のガイドライン”ではなく、「知財取引を競争政策の問題として整理し直す」という大きな方向転換を含んでいるからです。
背景には、価格転嫁や賃上げをめぐる政策があります。中小企業や個人事業者がきちんと対価を受け取れなければ、持続的な成長もイノベーションも生まれない。その中で、成果物の制作過程で生じる著作権やノウハウ、データが、実質的に無償や極めて低い価格で「吸い上げられている」のではないか、という問題意識が共有されています。クリエイターの世界でいえば、イラスト制作費やデザイン費の中に著作権の譲渡が当然のように含まれ、二次利用や将来展開までまとめて一括処理されてしまう、といった慣行が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
今回の報告書案で特に印象的なのは、「成果物の工賃部分と知的財産権部分を区別して考えることも選択肢である」と明示している点です。制作にかかった時間や労力への対価と、そこから生まれる著作権やノウハウといった“資産”としての価値は、本来同じではないはずだ、という発想です。これまで曖昧に一体化されがちだった部分を、あえて分けて意識しようというメッセージとも読めます。さらに、一時金払いだけでなく、成功報酬型やレベニューシェアといった対価の設定方法も「選択肢」として示すべきだとしています。コンテンツ産業では、公開後に売上や配信収益が伸びることも珍しくありません。最初に全てを買い取るという形だけが唯一のモデルではない、という空気が政策レベルで語られ始めている点は見逃せません。
もちろん、報告書は大企業を一方的に悪者にしているわけではありません。中小企業やクリエイター側の知財リテラシー向上も重要だと繰り返し述べていますし、過度な規制で取引が萎縮してしまっては本末転倒だというバランス感覚も示されています。つまり、「保護を強める」というよりは、「知財をきちんと価値として認識し、適正な取引環境を整える」という方向性です。
データやAIの話も出てきます。視聴データやユーザーデータ、AI学習への利用など、コンテンツを取り巻く環境は急速に変わっています。現時点では慎重なトーンですが、データの帰属や利用範囲の明確化は今後ますます重要になるでしょう。契約書の中で「何を、どこまで、誰が使えるのか」を曖昧にしたままにしておくことは、リスクになり得ます。
この報告書案はまだ“案”の段階ですが、いずれ正式な指針として整理されれば、契約実務にも影響が出てくるはずです。著作権の帰属や二次利用条件、AI利用条項、そして何より対価の決め方について、これまで以上に説明可能であることが求められるようになるでしょう。制作費=全部込み、という感覚は、徐々に見直しを迫られるかもしれません。
クリエイターや制作会社にとって大切なのは、「守られる存在」になることだけではなく、自分たちの知財をどう評価し、どう交渉するかを考えることです。知財は単なる成果物の付属物ではなく、将来の価値を生む資産でもあります。今回の動きは、その当たり前のことを、競争政策の文脈から改めて問い直しているように感じます。今後の正式な指針の内容と、実務への波及を、しっかり見ていきたいところです。
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