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【著作権】クリエイターの未来をつくる「知的財産推進計画2025」――AI時代の創作をどう守り、活かすか?

― 創作とAIが共存する新時代へ ―

2025年6月3日、政府の知的財産戦略本部は「知的財産推進計画2025」を公表しました。毎年公表される、知的財産の推進に関する行政計画ですが、特に今年は、日本の未来における創作活動の在り方、AI技術との関係、そしてコンテンツ産業の国際展開を見据えた「IPトランスフォーメーション(IPX)」という大胆な転換のビジョンが示されています。

本記事では、特にイラストレーター、映像制作者、作家、音楽家などのクリエイターの方々に向けて、「知的財産推進計画2025」が何を意味するのか、どのような準備が必要なのかを、計画文書に示されている文言を頼りに、読み解いて行きたいと思います。


1. なぜ今「知財」なのか? 日本の競争力と創造性の現在地

◆ 日本の国際的なポジションの変化

 まず基本認識として持たなくてはならないのが、日本経済を巡る競争力の現状が、決して優位にたっているわけではない、むしろ競争力の低下によりかなり遅れをとってしまっているということです。2000年代初頭、日本は製造業と技術力で世界に誇る経済大国でした。しかし、グローバルな競争環境の変化、デジタル技術の台頭、イノベーション拠点の移転などを背景に、日本の競争力は長期的に低下傾向にあります。WIPO(世界知的所有権機関)の「グローバル・イノベーション指数」では、日本は13位。中国(11位)や韓国(6位)に後れを取り、デジタル競争力に至っては31位という厳しい評価が出ています。

 しかし一方で、希望のある分野もあります。それが、日本の誇る「コンテンツ力」です。アニメ、漫画、ゲーム、映画、音楽といった「クールジャパン」は、いまや国のブランド価値そのものであり、世界中の若者を魅了し続けています。これらは単なるエンタメではなく、「知的資本」として国の競争力を支える柱なのです。


2. 創る力を育てる~「知的資本」時代のクリエイターの役割

◆ 「知財・無形資産投資」がカギ

 本計画では、クリエイティブな活動に対する投資……つまり、無形資産への評価を重視しています。無形資産とは、著作権、商標、ノウハウ、ブランド、デザインなど、目に見えないけれども価値を生む資産です。現在、日本企業は米国企業に比べてこうした資産の評価が低く、企業価値の押し上げにつながっていないとされています。

 この流れは、個人のクリエイターにも及びます。たとえば、自分の制作物の「創作過程」「ストーリー性」「社会的な意義」「影響力」を的確に言語化・可視化できれば、それ自体が「投資対象」として注目される可能性があります。政府はこの「知財・無形資産ガバナンス」の導入を推進しており、今後はクラウドファンディングやインパクト投資などとの連携も進むことが予想されます。


3. AIと創作の共存~生成AI時代における著作権の課題と対応

◆ 生成AIと著作権の最前線

ChatGPTやStable Diffusionなどの登場により、生成AIはあらゆる創作領域に広がりを見せています。資料作成、イラスト生成、楽曲の初期草案など、制作工程の一部にAIを取り入れるケースが増える一方、元ネタとなる既存著作物の無断学習や模倣に対して、クリエイターから不安の声も上がっています。本計画では、AIと著作権の関係性について、法制度・契約慣行・ガイドラインといった多層的な対応策を掲げています。


◆法制度面の整理:クリエイターを守るための環境整備

生成AIは、大量のデータを学習してコンテンツを自動生成するため、著作物の無断使用や模倣が問題になりやすく、従来の著作権制度では想定していなかった領域です。政府はこの現状を受け、以下のような取り組みを進めています:

・文化庁の法制度小委員会による「AIと著作権に関する考え方」の整理(2024年3月公表)・「AI時代の知的財産権検討会」(内閣府)による「中間とりまとめ」の公表(2024年5月)・不正競争防止法の活用による、俳優や声優の「声」や「肖像」など人格的要素の保護強化

これにより、AI開発者や利用者が著作権侵害にならないよう配慮すると同時に、創作者が安心して創作活動を続けられる環境を整備しようとしています。

その上で本計画では、AIと著作権の関係について、文化庁や知財戦略推進室が検討会を設置し、以下のような方針を示しています。

・AIと著作物の「適切な関係性」を維持する法制度整備・AI開発者、提供者、利用者の役割分担と責任の明確化・クリエイターの権利を守る契約・ライセンス指針の整備・声優・俳優等の「人格的権利」(声・顔)への法的対応(不正競争防止法)

生成AIは「脅威」ではなく、「共存の相手」として整理し直すことが、計画の大きな方向性です。


4. 発明者は誰? AIと特許制度のゆくえ

◆ AIを使って発明した場合、発明者は誰?

 生成AIが創作に深く関わるなか、特許制度にも新たな課題が生じています。たとえば、AIが提案した新しいデザインや素材に対し、その発明者は誰とみなすのか? AI開発者? 利用者? プロンプト設計者? 計画では、こうしたAI起因の発明(AI利用発明・AI自律発明)について、特許法の制度上、どう対応すべきかを産業構造審議会などで議論し、明確な指針を設ける方針です。

 重要なのは、「創作」と「補助」の線引きです。AIを使うことが当然になった社会においても、創作における人間の判断や意図は不可欠です。計画では、AIを活用しながらも、最終的に人が創造的判断を下している限り、それは「人間の創作」として保護対象になるとの立場が基本です。


5. 海外展開と契約力――「作品を売る力」も創作の一部に

◆ クールジャパン戦略と知財マネジメントの高度化

 アニメ、ゲーム、漫画、音楽、ファッション、グルメ……いわゆる「クールジャパン」分野のコンテンツは、いまや世界中で高い評価を受けています。YouTubeで流れる日本のVlog、海外のファンが待ちわびるアニメの新作、国際映画祭での邦画の受賞……。日本の“創作”が、国境を超えて愛される時代は、すでに到来しています

しかし、日本のコンテンツ産業は、本当に「稼げて」いるのでしょうか?

世界から高い支持を得ている日本のコンテンツですが、グローバル市場での「収益化」には大きな壁があると指摘されています。理由はシンプルです。契約・権利・マネジメントの仕組みが整っていないからです。

たとえば、以下のような問題が発生しています。

・海外との契約交渉が弱く、収益配分が不利・著作権・商標などが未登録で、模倣・パクリが横行・海外展開のノウハウ不足で、ローカライズやマーケティングが後手に


このような「出口戦略」の弱さが、せっかくのクリエイティブ資産を“消費されるだけ”にしてしまっているのです。

実はここに、今回の「知的財産推進計画2025」が正面から向き合おうとしている課題があります。

こうした状況を受けて、政府は2024年に「新たなクールジャパン戦略」を再構築し、クリエイターや中小企業が持つ知的財産を世界で“稼げる資産”として活用することを主軸に据えました。そして2025年の知財推進計画では、この流れを本格的に制度化・実装フェーズに移しています。具体的には以下の点がポイントです:


・知財マネジメント力の強化支援:個人や小規模企業でも使える契約テンプレートや海外展開ガイドを整備・コンテンツ産業官民協議会の創設:業界・政府・地方自治体が連携して支援策を議論・知財収益化のKPI導入:WIPOイノベーション指数の上位4位以内を2035年までに目指す

 これは単なる文化振興ではなく、「経済戦略」としての知財政策への本格転換を意味します。

◆ クリエイターに求められる新しいスキル

 今後、創作者自身にも「法務」「財務」「交渉」などの知見が求められるようになります。個人であっても、自らの知的財産を活かす戦略を立て、契約交渉の場で自分の価値を正当に伝えるスキルが、極めて重要な武器になります。


6. 「知財リテラシー」を育てる社会へ――すべての創作の基礎体力

◆ 学校・大学・地域での支援策も拡大へ

計画では、クリエイターの裾野を広げ、知財リテラシーを育てるため、以下のような施策も紹介されています。

・大学・専門学校での知財教育の充実・地域でのクリエイティブ活動への助成・マッチング支援・中小企業とのコラボ支援(オープンイノベーション促進)

つまり「創作する力」「守る力」「伝える力」を総合的に育てることが、今後の日本の競争力につながるという視点です。


7.作品は「未来への投資」になる

知的財産推進計画2025は、創作者にとって大きなチャンスであり、同時に責任ある時代の到来を告げています。

あなたの描いたキャラクターが、未来の新ビジネスを生むかもしれない。あなたが紡いだ物語が、海外の読者の心を動かすかもしれない。そしてあなたの作品が、AIと共存しながら、新たな社会課題の解決に貢献する日が来るかもしれません。

「創作」は、孤独な作業であると同時に、社会とつながる営みです。だからこそ、自分の作品を「守る」知識を持ち、「活かす」スキルを身につけ、「育てる」覚悟を持ってほしい。

今後の日本は、創作者一人ひとりの力にかかっています。



【参考】


【著作権行政に関する情報集】


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