【行政情報】「知的財産推進計画2026」に向けた検討、はじまる
- 那住行政書士事務所

- 2 時間前
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令和8年2月27日、政府の知的財産戦略本部・第2回構想委員会において、「知的財産推進計画2026」に向けた検討がおこなわれました。
以下、公表された検討資料です。
概要
本検討資料は、
「知的財産推進計画2026」の策定に向けて実施された
パブリックコメント(901件、うち法人174件)
第1回構想委員会の指摘事項
関連検討会・部会の議論状況
を踏まえた論点整理資料となっています。
検討の柱は以下の5本柱で整理されています。
知財・無形資産への投資促進による価値創造
AI・デジタル時代の知的財産制度の構築
新たな国際標準戦略・ルール形成の促進
クールジャパン戦略の展開
コンテンツ戦略の推進
主な枠組みと取組方向
1.知財・無形資産投資の経営アジェンダ化
(1)問題意識
日本企業における知財意識は国際比較で低位(WIPO調査)
知財の価値が経営層・投資家に伝わっていない
無形資産を事業貢献に結びつける指標・共通言語が不足
また、特許侵害への対応においても、
「コストに比して賠償額が小さい」
「自社リソースを割けない」
といった理由で対抗措置を断念する企業が多いという実態が示されている。
(2)計画2026で想定される方向性
① 知財・無形資産を「経営会議のアジェンダ」に
CEO主導の知財経営
「知財・無形資産経営コンソーシアム(仮称)」構想
② ガイドライン改訂
「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」の改訂
経営層に響く言語化・定量化の強化
③ 人材戦略
CIPOなど専門人材の配置
知財戦略人材育成の強化
④ 国プロにおける知財マネジメント強化
IPランドスケープの義務的活用
新規性喪失例外の濫用抑制
研究開発段階からの知財戦略組込み
総じて、「知財=法務部門の話」から「知財=成長投資・企業価値の源泉」へと転換する設計が目指されている。
2.AI・デジタル時代の制度設計
(1)議論の中心
パブコメ901件中、AI関連が408件と最多。
主な論点:
生成AIと著作権の関係
学習データの透明性
AI事業者の開示義務
発明者適格性(AI利用発明)
規制強化とイノベーション阻害のバランス
(2)プリンシプル・コード(案)
生成AI事業者向けに、
コンセプト
「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式
主な原則
学習データ等に関する概要開示
URL指定型の開示請求への対応
類似生成物に関する開示対応
対象は日本向けサービスを提供する海外企業も含む。
これはEU AI法を参照しつつ、日本型ソフトロー規律を構築しようとするもの。
(3)産業財産権分野
AI利用発明の発明者認定
ネットワーク関連発明の国内実施要件整理
SEP・経済安全保障との関係
すなわち、著作権だけでなく特許制度側のアップデートも同時進行している。
3.国際標準戦略の強化
(1)基本方向
ルールテイカーからルールメイカーへ
技術戦略・知財戦略・経済安全保障の一体化
標準必須特許(SEP)の戦略的取得
(2)制度的動き
① 国際標準に係る官民ハイレベルフォーラム設置② 行動宣言の決議③ 国際標準シンポジウム開催④ 標準戦略部会での実務議論
(3)重点ポイント
国家戦略技術と標準の接続
研究開発段階からの標準戦略組込み
標準×特許×市場の一気通貫支援
人材育成(標準戦略人材)
標準を「出口戦略」ではなく「入口戦略」に組み込む設計が強調されている。
4.クールジャパン・コンテンツ戦略
(1)KPI管理の高度化
円ベースだけでなくドルベースでもモニタリング
戦略KPIの達成状況の可視化
(2)海外展開支援
EC含む販売支援
グローバルサプライチェーン構築
放送コンテンツ活用による地域発信
(3)コンテンツ×異分野連携
アニメ・ドラマ×食・ファッション
聖地巡礼の高度化
地域一体型プロモーション
単なる文化輸出ではなく、「高付加価値産業戦略」として再設計されている。
5.全体的な構造的転換
本資料から読み取れる「知財推進計画2026」の特徴は次の3点に集約できる。
① 知財の経営統合
知財を
法制度
保護政策
ではなく、
経営戦略
成長投資
企業価値向上
の中心に据える。
② AIを軸とする制度再設計
学習段階の合法性
透明性確保
発明者問題
経済安全保障
を横断的に整理し、日本型AI知財秩序を形成。
③ 標準・ルール形成の国家戦略化
標準×特許×市場
官民一体化
戦略的SEP取得
を通じ、知財を地政学・産業政策と接続。
本文書の分析
― AI時代における“透明性”というキーワード ―
今回の資料を通して強く感じたのは、知的財産政策が単なる“保護政策”ではなく、国家の成長戦略そのものへと再設計されつつあるという点です。
特に注目すべきなのは、生成AIをめぐる議論が中心的なテーマになっていることです。パブリックコメント901件のうち、AI関連が408件を占めているという事実からも、社会的関心の高さがうかがえます。
今回の検討で特徴的なのは、「透明性」を軸としたアプローチです。生成AIについては、著作権法30条の4によって学習段階の利用が比較的広く許容されている日本ですが、その一方で、「学習であれば何をしてもよいのか」という不安や誤解も広がっています。
そこで提示されているのが、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(案)」です。これは、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式を採用し、生成AI事業者に対して、
・学習データ等の概要開示
・権利侵害を主張する者への回答
・類似生成物が存在する場合の対応
といった透明性確保を求めるものです。
ここで重要なのは、日本がいきなり強い規制に踏み込むのではなく、ソフトロー型の枠組みでまず説明責任を制度化しようとしている点です。EUのAI法とは異なる、日本らしいアプローチと言えるでしょう。
もっとも、権利者側からは「AI活用ばかりが優先されているのではないか」という懸念も示されています。学習データの開示やコンテンツ識別の確実性を求める声が多いことも資料から読み取れます。今後の焦点は、イノベーション促進と権利保護のバランスをいかに具体的に設計していくかにあります。
また、今回の資料を通じて印象的だったのは、「知財を経営の中心に置く」という強いメッセージです。知財・無形資産を経営会議のアジェンダにし、企業価値と直結させるという方向性が明確に打ち出されています。
これは著作権実務にも大きな影響を与えるでしょう。これまでの実務は、侵害対応や許諾契約の整理が中心でした。しかしこれからは、AI活用方針の策定支援や、透明性対応の内部ルール設計、データ利用に関する契約設計など、より戦略的な業務が増えていくと考えられます。
さらに、国際標準戦略やクールジャパン政策とも密接に連動している点も見逃せません。コンテンツは単なる文化資産ではなく、標準や技術、プラットフォーム戦略と結びついた“経済資源”として再定義されています。著作権はもはや独立した法領域ではなく、特許・標準・データと横断的に絡み合う時代に入っているのです。
これからの著作権実務では、「条文をどう解釈するか」だけでは足りなくなってきています。もちろん、著作権法の条文を正確に読むことは大前提です。しかしAIの時代には、それだけでは問題は解決しません。
たとえば、
・自社のAIがどのようなデータを学習しているのか
・権利者から問い合わせがあったとき、どこまで説明するのか
・似た作品が生成された場合、どのように対応するのか
といった「運用のルール」をあらかじめ決めておくことが、実務では極めて重要になります。
つまり、裁判になってから議論するのではなく、トラブルを未然に防ぐための“仕組みづくり”が求められているのです。
今回の「知的財産推進計画2026」は、まさにその方向性を示しています。AIをどう規制するかという話だけではなく、AI事業者にどのような説明責任を求めるのか、社会としてどの程度の透明性を求めるのかを、政策レベルで整理しようとしています。
著作権は、単なる権利制限の問題ではなく、信頼をつくるためのルールでもあります。
AI時代の知財政策は、その“信頼の土台”をどう作るかという段階に入っているのだと感じています。
※本記載は投稿日現在の法律・情報に基づいた記載となっております。また記載には誤り等がないよう細心の注意を払っておりますが、誤植、不正確な内容等により閲覧者等がトラブル、損失、損害を受けた場合でも、執筆者並びに当事務所は一切責任を負いません。
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