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【行政情報】遺言書制度の法改正:デジタル時代に対応した遺言書制度「中間試案」まとまる。~見えてきた新時代の遺言制度

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2025年7月15日、「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」が公表されました。これまで「法制審議会民法(遺言関係)会議」において、1年以上に渡り法改正への議論が行われてきましたが、デジタル時代における遺言制度をどうするか、ようやく方向性が明確示されたことなります。


本ページでは、昨年11月29日に「遺言書制度の法改正:デジタル時代に対応した新たな制度の在り方」として、昨年4月16日に開催された第1回会議から第6回会議までの議論の模様をまとめて掲載いたしました。


また昨年12月3日には「遺言書制度の法改正:デジタル時代に対応した遺言書制度「中間試案」に向けて議論が進む」として、昨年11月19日に行われた第7回会議と、会議で公表された「中間試案のとりまとめに向けた議論のたたき台」について、情報をまとめて掲載しております。


本稿においては、昨年12月17日に行われた第8回会議以降の議論の流れと、会議においてとりまとめられ、2025年7月15日に公表された「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」について、分析をするともに、今後の方向性について考察したいと思います。


◆民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案

◆民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案の補足説明

◆民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案に関する参考資料

▼第8回~第11回会議議論の概要について


◆第8回会議(2024年12月17日):たたき台をめぐる具体的な議論の開始

第8回会議では、前回会議までにとりまとめた「たたき台」資料を基に、制度見直しの全体像について委員間でより具体的な議論が始まりました。


主に取り上げられたのは以下の点です:

・自筆証書遺言の形式緩和について、パソコン等による作成を一部認めるか否か。

・デジタル遺言の導入の是非。すなわち、スマートフォンやPCによる電子的な遺言書の作成を新たに制度化するか。

・秘密証書遺言の実効性について。現在ほとんど活用されていないこの方式を維持するか、廃止するか。

・特別方式遺言(危急時遺言など)の要件緩和または再整理。

・遺言能力の判断基準や、被後見人による遺言の可否など。


この回では、特に「自筆証書遺言における方式要件」と「新たなデジタル方式の創設」に関する意見が多く交わされ、今後の制度設計の柱が浮かび上がってきました。

<第8回会議で配布された資料>

<第8回会議の議事録>


◆第9回会議(2025年3月25日):技術的・実務的観点からの検討深化


第9回会議では、2本の会議資料をもとに、前回に引き続き「たたき台」に基づく検討が行われました。


この回で特に注目されたのは:

・デジタル遺言の可能性と課題

 遺言の動画撮影や音声データの活用をどう位置づけるか。

 信頼性・改ざん防止・保存方法(クラウド等)の担保ができるか。

・ 自筆証書遺言における「全文自署」要件の見直し

 「財産目録はパソコン可」という現行ルールにとどまらず、「遺言本文」自体をPC入力で許容するか。

 高齢者や障がい者の実情に即した柔軟な方式の模索。

・秘密証書遺言の将来像

 廃止すべきとの意見と、証人等の厳格性を緩和すれば存続可能という意見の対立。

・成年被後見人の遺言の可否

 「一時回復の見込みがあれば医師の診断を経て有効」とする現行制度を維持するか、より実務に適した形へ見直すか。


またこの回では、技術的実装や公証人制度との関係、制度利用者(高齢者・家族)への影響等が現実的に議論されました。


<第9回会議で配布された資料>

<第9回会議の議事録>



◆第10回会議(2025年6月3日):論点の集約と整理へ

第10回会議では、以下のように主要な検討事項が整理されました:


・新たなデジタル方式遺言の導入

・自筆証書遺言の形式緩和

・秘密証書遺言の見直し

・特別方式遺言の再整理

・遺言能力、記載の明確性、被後見人の遺言等の諸論点


<第10回会議で配布された資料>

<第10回会議の議事録>

*第10回会議の議事録が未公開であるため、公開後、本記事を追記します。


◆第11回会議(2025年7月15日):ついに中間試案が公表

この回では、ついに「中間試案」(案)が審議され、修正を加えた上で正式な「中間試案」として決定されました。

<第11回会議で配布された資料>


<第11回会議の議事録>

*第11回会議の議事録が未公開であるため、公開後、本記事を追記します。


▼中間試案のポイント:どのような改革が示されたのか

1. デジタル方式の新設

中間試案の中でも最も注目を集めている改革の一つが、新たに創設される予定の「デジタル方式による遺言」、いわゆる「電子遺言制度」です。これは、従来の紙ベースの遺言制度に加えて、パソコンやスマートフォンなどの電子機器を用いて遺言書を作成し、それを電子的に保存・証明する方式を新たに認めようとするものです。

この制度では、作成者本人が一定の電子的な認証手段(たとえば、マイナンバーカードに搭載された「署名用電子証明書」など)を用いて本人確認を行い、電子文書に署名を付与することが前提となります。また、作成された電子遺言は、信頼性を確保するため、法務省が管理する「遺言情報管理機関」などによる保存・記録システムの活用が検討されています。


さらに、遺言の有効性を巡る争いを防止するために、証人による作成時の立会や、録画記録を残すなどの措置も想定されています。制度化されれば、将来的には自宅にいながらスマホやパソコンで遺言を作成し、オンラインでその内容を証明・保存できる時代が来る可能性があります。

この「電子遺言」は、特に高齢者が身体的な制約などにより筆記が困難な場合でも、意志をしっかり残すことができる手段として期待されており、今後の議論と制度設計の精緻化が強く求められます。


今回の中間試案では具体的に4案示され、一つ又は複数の方式を創設することについて、引き続き検討するとしています。

4案は具体的には以下の案となります。


【甲1案】証人立会型の高度な電子遺言方式

― 安全性重視の「電子的公正証書」モデル


■ 概要

遺言者は、遺言内容を電磁的記録(例:PDFファイル)に記録し、証人の立ち会いのもとで、その内容を口述します。

証人は、口述内容が記録内容と一致していることを確認し、自身の氏名を口述。

それらすべてを録音・録画して保存します。


■ 形式要件(概要)

電磁的記録に遺言全文・日付・遺言者・証人の氏名等を記録

証人2名以上の前で、遺言者が内容を口述

証人が口述を確認し、自身の情報を口述

②③の様子を同時に録音・録画して保存


■ 特徴と利点

証人が実際に立ち会うことで、本人確認と意思能力の二重チェックが可能。

録音・録画により不正や改ざんの防止に資する。

電子署名の導入も検討されており、技術的にも高い信頼性。


■ 課題

証人の立会いが必須で、手続きが煩雑になりやすい。

作成時の設備や支援者の確保が必要で、利用ハードルがやや高め。

検認制度(家庭裁判所での確認手続)の適用や方式判断の負担が懸念される。


【甲2案】立会人を不要とし代替措置で作成する方式

― 自主性とセキュリティの両立を図る案


■ 概要

証人の立会いを不要とし、遺言者単独で作成・録音・保存が可能。

ただし、本人以外の者が口述したり、同席したりすることを防ぐための技術的措置を必須とする。


■ 形式要件(概要)

遺言内容・日付・氏名を電磁的記録に記載し、電子署名

遺言者が、全文・日付・氏名を口述

口述およびその状況を録音・録画

口述時に他人が介入しないよう、生体認証や周囲の撮影で証明


■ 特徴と利点

証人が不要で、遺言者が1人で完結できる。

電子署名により記録の改変防止が可能。

ITリテラシーがある人には非常に利便性が高い方式。


■ 課題

技術的要件が複雑で、利用者に一定の操作能力が必要。

立会いなし=不正のリスク増大に備えた認証方法の整備が必要。

作成後に内容を争われた場合、録画の信憑性の評価が難しい可能性も。


【乙案】公的保管+出頭確認方式の電子遺言

― 法務局等で本人確認を受けて保管


■ 概要

電子ファイル(遺言データ)を公的機関(法務局等)にオンライン申請・提出。

原則として本人が出頭して全文を口述することで本人確認を行う。

公的機関が方式要件の確認を行ったうえで正式に保管。


■ 形式要件(概要)

遺言内容と氏名を記録し、電子署名

公的機関にオンライン申請(必要情報添付)

本人確認+口述(例外的にウェブ会議も可)

保管手続の記録・保管


■ 特徴と利点

公的機関が関与するため、作成段階から信頼性が高い。

保管制度により、検認不要でスムーズな相続手続きが可能。

後日のトラブル予防にもつながる。


■ 課題

原則として遺言者が出頭する必要があるため、体調・居住地によっては負担が大きい。

ウェブ会議による代替措置の制度設計が鍵。

保管業務を担う行政機関の人員・システム整備が前提条件。


【丙案】紙に印刷して署名し、保管する方式

― デジタルを活用しつつ「書面」に戻す設計


■ 概要

パソコン等で作成した遺言内容を紙に印刷し、自署のうえで提出。

公的機関に出頭し、全文口述を行って本人確認を受ける。

遺言書は紙で保管される。


■ 形式要件(概要)

印刷された遺言書に署名

公的機関に提出(申請書類添付)

出頭・口述(例外的にウェブ会議可)

保管手続完了・記録


■ 特徴と利点

デジタル機器を使った作成が可能でも、最終的に紙で保存するため、なじみやすい。

法務局保管制度と同様に検認不要。

高度な電子技術や電子署名が不要。


■ 課題

結局は紙に戻るため、完全な電子化とは言えない。

印刷や署名の手間は残る。

情報管理や検索性の面では、乙案や甲案よりやや劣る。



2. 自筆証書遺言の方式緩和

自筆証書遺言は、遺言者が紙に自分で全文を手書きし、日付と署名を添えることにより成立するシンプルな形式であり、費用もかからず利用しやすい制度です。一方で、高齢化の進行や障害のある方にとって「全文自書」の要件は非常にハードルが高く、制度の利用を妨げてきた面もありました。


そこで中間試案では、この「全文自書」の要件を緩和し、たとえば「パソコン等で作成した本文を印刷した上で、署名と押印をすれば有効とする」方式等が検討されています。


この緩和によって、要介護者や障害のある方、または識字が困難な方にとっても遺言がより身近なものになり、実際に制度を利用しやすくなることが期待されます。一方で、誰かが代わりに入力した内容をそのまま遺言とするような事態を防ぐため、最終的な意思確認のプロセスや署名・日付の記載方法についてのガイドラインが設けられる見込みです。


2020年の法改正で「財産目録に限ってはパソコン作成・コピー添付が可能」となりましたが、これをさらに一歩進め、遺言本文自体にも柔軟な方式を導入することにより、自筆証書遺言の活用が大きく広がることが予想されます。


3. 秘密証書遺言の存続・要件緩和

秘密証書遺言とは、遺言の内容を他人に知られたくない場合に使われる制度であり、遺言書の本文を自分で作成し、封筒に封をして、公証人と証人2人の前で「これが自分の遺言である」と認証を受ける形式です。しかし、現行制度では証人2人が必要なうえに、押印や手続きの煩雑さ、そして公証人も内容を確認しないことから、実務ではほとんど利用されていません。


今回の中間試案では、この制度の「存続の是非」が再検討されました。最終的に「制度としては維持しつつ、利用しやすくするための方式要件の緩和を行う」という方向がとられています。


4. 特別の方式による遺言の見直し


特別の方式による遺言とは、病気などで死が目前に迫っている場合や、船舶や災害など特殊な状況下にある場合に、通常の方式に代えて簡易な手続きで遺言を認める制度です。たとえば、口頭で遺言を述べ、証人がそれを記録・署名するといった形式がこれにあたります。


しかしながら、現行制度では、たとえば「危急時遺言」は作成後20日以内に家庭裁判所の確認の申立てを行う必要があり、証人や医師の立会要件も厳格であるため、現実には活用しづらい面が指摘されてきました。


今回の中間試案では、この特別方式について以下のような見直しが提案されています。


証人要件の緩和

 2人以上の証人を必要とする現行要件について、「信頼できる1人の専門職による立会」や、「ビデオ録画を証拠とする方式」への代替も検討されています。


家庭裁判所の確認手続の簡素化

 20日以内の確認手続の厳格な運用について、「電子申立」や「オンライン確認」など、柔軟な対応を取り入れる方向も議論されています。


災害時の特例拡大

 震災・風水害・感染症等、災害時に限って適用される簡易方式について、より多様なケース(避難所生活など)にも適用を広げる見直しも想定されています。


このような改正により、突発的な事態や余命が短い状況においても、迅速かつ確実に意思を残せる制度へと進化することが期待されます。


5. 遺言能力・記載内容の明確性・成年被後見人の遺言


最後に、「誰が遺言を作成できるか」「どのような内容であれば遺言と認められるか」といった基本的な論点についても見直しが加えられています。


遺言能力の判断

現行制度では、15歳以上であれば遺言を作成できるとされており、加えて「意思能力」が求められます。今回の中間試案では、「明確な基準の提示」や「判断能力に関する医師の診断の取り扱い」について、より明文化・明確化する必要性が指摘されています。


成年被後見人の遺言

現在、成年被後見人が遺言をするには、意識が一時的に回復しており、かつ医師2人以上の立会と診断が必要です。この要件があまりにも厳しすぎるため、現実には実効性を欠いているという指摘があります。

中間試案では、「医師1名の診断でも可とする」「主治医以外でもよい」「診断書の様式を標準化する」といった実務的な対応の緩和が提案されています。


内容の明確性の確保

たとえば「自宅を長男に相続させる」といった曖昧な記述ではなく、土地や建物の登記情報、財産の範囲などを明記すべきとされており、形式面でのルールや記載例の整備が求められています。行政書士等の専門職による支援もここで重要になります。



▼今後の方向性と行政書士として考えるべきこと

まとめると、たたき台は「制度改正の必要性を問題提起し、論点を列挙する」ものであり、どちらかといえば「問題カタログ」のような性質を持っていました。それに対し、中間試案では、これらの論点について、


・制度改正の方向性が明記された

・条文案に近い制度要件の提示がなされている

・技術的・実務的な運用も考慮されている


というように、立法実現を視野に入れた「制度設計図」に近い内容へと進化しています。


この変化は、今後の法改正に向けた重要な一歩であり、パブリックコメントや立法作業の議論に直結するフェーズに入ったことを示しています。これにより、私たち実務家や国民一人ひとりも、より具体的に自分ごととして制度を理解し、今後の対応を検討していかなくてはなりません。


今回の中間試案は、単なる法技術的な見直しではなく、「遺言制度をより使いやすく」「意思を正確に残せる制度へと進化させる」という大きな目的のもとにまとめられています。その意味で、この制度改正は、行政書士をはじめとする実務家にとっても、極めて大きな転機であり、同時に大きな役割が期待されるタイミングでもあります。


今後制度が実際に改正されれば、新たな手続きに対応するため、遺言書の作成支援はもちろん、相続人の調査、財産目録の整理、さらには遺言執行者としての役割など、行政書士がかかわる場面は今後さらに広がっていくでしょう。



▼個人的見解

本中間まとめを受けて、様々な意見が発出され、具体的な立法が進んでいくと思います。個人的な見解としては、すべての案に対応する課題として、以下の点につき善処すべきであると考えます。


それは、制度の安全性・信頼性も重要ですが、それと同時に「誰もが使いやすい制度」でなければ、現実に広がらないという点です。特に以下の点は、制度設計段階で意識して反映く必要があると思います。

・書式や操作手順は「高齢者でも一人でできる」を基準に。

・デジタルに対応できない高齢者等に対し、行政書士等の専門家がサポートできることを前提とした設計。

・相続人等が遺言の有無を確認しやすい検索・閲覧制度の整備。

・利用者向けの広報・相談体制の全国展開。相談における行政書士の活用。



高齢化社会の中で、「最期の意思をどう残すか」は、個人だけでなく家族全体の安心に直結する大切なテーマです。だからこそその制度は、厳正であると同時に誰もが使えるものでなくてはいけません。


行政書士はこれらの制度改正、法改正を法律の入口を案内する案内人として、わかりやすく、誠実に、そして中立的に制度を伝えていく責任があります。

当事務所では、今回の中間試案を踏まえて、制度改正の動向に敏感に対応しながら、ご相談者お一人おひとりに合った遺言のかたちをご提案できるよう、これからも研鑽を積んでまいります。

どうぞお気軽にご相談ください。制度が変わる今だからこそ、「想いをきちんとカタチにする」お手伝いを、行政書士として全力で担ってまいります。




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