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【文化庁】文化審議会著作権分科会の動向<著作権分科会 政策小委員会>

DX時代における著作権の未来は……


AIの急速な発展など、DX時代における著作権の流通において、著作物をどのように法的に保護するか、また権利者にどのような対価還元を行っていくか。私たちの社会構造や経済の仕組みにも大きな影響を与えるこれらの問題について、早急に議論を進め、法整備等を行っていく必要があります。

今年度の「文化審議会著作権分科会政策小委員会」では


・DX時代に対応した著作物の利用円滑化・権利保護・適切な対価還元に係る基本施策について

・著作権保護に向けた国際的な動向を踏まえた対応の在り方など


について議論が進められており、2024年度では6回の会議がおこなわれました。本ページではこれまでの同会議の議論をまとめるとともに、施策が方向性がどの方向を目指しているのか、考察していきたいと思います。


ー議論の背景

デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は、著作物の利用形態にも及んでおり、これまで想定されていなかった形での著作物利用や権利侵害のケースが急増しています。


こうした時代背景を踏まえ、文化庁は今年度の「文化審議会著作権分科会 政策小委員会」において、DX時代に対応する著作権施策の検討を進めています。今年度、ここまでの3回の会議では、特に著作物の利用円滑化、権利保護、適切な対価還元に向けた基本方針や具体策について議論が行われました。


DXの進展により、従来の著作物利用の枠組みでは対応しきれない事例が多発しています。たとえば、以下のような新たな課題が顕在化しています。


―AIの活用と著作物

AIによる画像生成や文章作成ツールが普及する中で、既存の著作物を無断で学習データとして利用するケースが問題視されています。著作権者の権利を保護しつつ、AIの活用を妨げないバランスの取れた制度設計が求められています。


―デジタルアーカイブと著作物利用

図書館や教育機関などが積極的にデジタルアーカイブを推進していますが、これに伴う著作物の権利処理が煩雑化しています。特に、利用目的に応じたライセンスの設計や、権利者不明の著作物への対応が課題です。


ー国際的な著作権侵害

海賊版サイトや違法アップロードは国境を越えて行われるため、国内法だけでは対応が難しいのが現状です。国際的な条約や多国間協力の枠組みが不可欠となっています。


初出:2024年11月26日

更新:2024年11月29日 一部修正

   2025年4月7日 第4回目以降議事内容追記


各回における具体的議論……


文化審議会著作権分科会政策小委員会では、各会議で具体的に、以下のような議論が行われました。


第1回 令和6年5月20日:施策の基本方針と課題の整理

第1回会議では、今年度の方向性を定めるため、以下のような議題が取り上げられました。


ワーキングチームの設置

政策小委員会では、課題ごとに専門的な議論を深めるためのワーキングチームが設置されました。


・放送条約の検討に関するワーキングチーム

世界知的所有権機関(WIPO)にて検討中の放送機関の権利の保護に関する新たなルール作り(放送条約)への対応について議論。特に、放送コンテンツの国際的な保護や、ストリーミングサービスとの関係性が焦点。


・法制度に関するワーキングチーム

現行の著作権法がDX時代の課題に対応しきれていない点を補うため、改正の必要性を議論。AIやビッグデータ利用に関する法的枠組みも検討対象に。


第1回会議では、特に国際的な課題が強調されました。海賊版対策では、国際的な協力体制の整備が必要不可欠であり、例えば著作権侵害サイトへのアクセスブロッキングや、権利者団体間のデータ共有が議題に上がりました。


・第2回 令和6年7月31日:クリエイターへの適切な対価還元

第2回会議では、DX時代におけるクリエイターへの適切な対価還元が議論の中心となりました。このテーマは、著作権者にとって特に関心の高い内容です。


・透明性の向上

著作権契約の透明性を確保するため、以下のような施策が提案されました。

 標準契約書の普及:中小規模のクリエイターが安心して利用できるよう、契約条項の標準化を目指す。

 ガイドライン策定:特にプラットフォーム事業者との契約において、公正な条件を提示するための基準を整備。

 収益分配の公正化:クリエイターが自分の著作物から正当な報酬を得られる仕組みの構築が議論されました。

 プラットフォームとの関係性改善:現状では、プラットフォーム側が著作物の収益を一方的に管理するケースが多いことから、クリエイターに対する収益分配の透明性向上が求められました。

 業界全体の構造改革:製作委員会方式など、業界慣習の見直しも含めた包括的な議論が行われました。


・第3回 令和6年10月21日:ヒアリングを通じた現場の声

第3回会議では、Netflixや日本動画協会などからのヒアリングを通じて、現場の課題が浮き彫りにされました。


・Netflixの事例

Netflixの事例では、以下のような課題と取り組みが紹介されました。


 独自の収益モデル:グローバル展開するプラットフォームとして、クリエイターに対して一定の利益還元を行っている。

 透明性の課題:契約条件や収益分配の詳細がクリエイターにとってわかりにくいという指摘。


・日本動画協会の事例

アニメ業界では、製作委員会方式の下での不透明な収益分配が問題となっています。ヒアリングでは、特に以下の点が強調されました。

 ・下請け企業の利益確保:アニメ制作に携わるクリエイターやスタジオが正当な対価を得られない現状。

 ・収益の偏り:特定の出資者やプラットフォームに収益が集中する構造的な問題。



DX時代に向けた著作権施策の方向性


これらの議論を踏まえ、政策小委員会では以下のような施策が検討されています。


・著作物利用の円滑化

 ライセンス契約の簡略化や、著作物のデジタルアーカイブ化を推進。特に中小クリエイターが活用しやすい仕組みが求められています。

・権利保護の強化

 AIや海賊版対策に特化した法改正が必要。国際的な枠組みを活用し、権利者の保護を徹底。

・適切な対価還元

 ガイドライン策定や契約透明化を通じて、クリエイターの利益を守る。

・プラットフォーム事業者との協力体制を強化。


第4回 令和7年1月20日:著作権侵害対策とクリエイターへの対価還元

第4回会議では、以下の主要な議題が取り上げられました:​

  1. 著作権侵害に対する対応

  2. DX時代におけるクリエイターへの適切な対価還元方策


著作権侵害に対する対応

総務省から「情報流通プラットフォーム対処法」に関する「違法情報ガイドライン」についての説明がありました。​この法律は、大規模プラットフォーム事業者に対し、違法情報への迅速な対応と運用状況の透明化を義務付けるものです。​具体的には、削除申出窓口の整備、対応体制の強化、削除基準の策定・公表などが求められています。​これにより、プラットフォーム上での著作権侵害への迅速かつ適切な対応が期待されます。​


クリエイターへの適切な対価還元方策

事務局から、これまでのヒアリング結果を基に、デジタルプラットフォームサービスにおけるクリエイターへの対価還元に関する課題が提示されました。​特に、収益分配の透明性や契約条件の明確化が重要視されています。​これに対し、委員からは、クリエイターが適正な報酬を得るための法的枠組みの整備や、プラットフォーム事業者との交渉力強化の必要性が指摘されました。


第5回 令和7年2月25日:クリエイターへの対価還元に関する具体的施策の検討

第5回会議では、前回の議論を踏まえ、以下の点についてさらに深掘りが行われました:​

  1. デジタルプラットフォームにおける収益分配の現状分析

  2. クリエイターへの対価還元を実現するための具体的施策


収益分配の現状分析

事務局から、デジタルプラットフォームにおける収益分配の現状と課題が報告されました。​特に、プラットフォーム事業者が収益の大部分を占め、クリエイターへの還元が十分でないケースが多いことが明らかになりました。​

具体的施策の検討

委員からは、以下のような施策が提案されました:​

  • 契約ガイドラインの策定:​クリエイターとプラットフォーム事業者間の契約において、公正な条件を確保するための標準的なガイドラインを作成する。​

  • 報酬支払の透明性向上:​収益分配の計算方法や支払プロセスを明確化し、クリエイターが自身の収益を正確に把握できるようにする。​

  • 交渉力強化のための支援:​クリエイターが契約交渉において適切な条件を引き出せるよう、法的支援や教育プログラムを提供する。​


第6回会議(令和7年3月13日):放送コンテンツの権利処理の円滑化

第6回会議については、現時点で議題と配布資料のみが公開されています。​主な議題は以下の通りです:​

  1. 放送コンテンツの権利処理の円滑化

  2. デジタルアーカイブの推進に関する課題

これらの議題から、放送コンテンツの二次利用促進や、文化資産のデジタル化とその利活用に関する具体的な施策が検討されることが予想されます。


また第6回会議には「未管理著作物裁定制度」の施行に向けた、意見公募手続きの結果が手提出されています。主な意見は以下の通りです。


● 意見募集の実施状況

募集期間:令和7年1月20日~2月19日

提出意見数:計793件

募集手段:e-Govフォーム、電子メール、郵便等を通じて実施


● 寄せられた主な意見と文化庁の考え方

1. 制度全体への評価と懸念

肯定的意見:

権利情報検索システムの構築に期待

埋もれた著作物の利活用促進による文化・産業振興への期待


懸念・反対意見:

「連絡が取れない=利用可能」という制度設計への懸念

実際に利用する際の手続の煩雑さ・権利者意思確認の困難性


文化庁の考え:

制度は著作権者の利益を損なわず、対価還元を促すためのものであり、「意思表示」が明確であれば制度の対象外となる。意思表示の方法例として、著作物周辺や著作権者HPへの記載を挙げている。


2. 意思確認手続に関する意見

「14日間の意思確認期間は短い」との指摘

民法等での公示期間(14日間)を参考に設定

著作権者不明の場合の定義・運用が不明確との声


文化庁の考え:

手続きの迅速化と適正な意思確認のバランスを図ることが重要。運用ガイドラインで範囲や確認手法(検索の程度等)を明確にしていく。


3. 権利処理における具体的課題

外国著作権者への対応や複数著作権者の場合の処理が不明

外国著作物は原則制度対象外

複数権利者がいる場合は原則全員の許諾が必要。意思不明な者に対してのみ制度利用可

二次的著作物の扱い

原著作物と二次的著作物両方の権利処理が必要。従来のルールと変わらず


4. 中小利用者への配慮・制度の使いやすさ

制度の運用が個人や中小事業者には難しいという意見

ガイドラインの整備により、具体的な操作・記載例・確認方法を明示予定


文化庁の考え:

窓口組織の活用等で負担軽減を図る予定。制度を分かりやすく説明し、広く利用できるよう整備を進める。


5. 著作権者側の配慮に関する意見

連絡先を明示しなければ使われてしまう懸念

意思表示をすれば制度の適用外となる。著作物周辺や著作権者HP等に「無断転載禁止」などを明示すればよい

作品の表現性と意思表示が両立しにくいという懸念(例:イラスト)

HPなど別の場所に意思表示しても有効。表現と両立可能


今後の対応:

ガイドラインの策定と公表

制度利用者・著作権者の双方が適切に対応できるよう、実務的な運用指針(意思確認方法、記載例、手続フローなど)を公開予定

権利情報検索システムの整備

制度運用の基盤として、実効性ある検索機能の提供を目指す



 

これらの施策や議論は、著作権者に直接的な影響を及ぼします。特に、収益分配の透明性向上や、AIによる著作物利用の法的枠組みの整備は、著作権者が自身の権利を適切に行使できるかどうかを左右する重要なポイントです。

今後も議論を注視し、自身の権利保護と創作環境の向上に向けて積極的に関与することが求められます。

このように、文化審議会著作権分科会政策小委員会の議論は、DX時代における著作権の未来を方向付けるものです。当事務所では会議の動向に注目し、引き続きリポートを掲載して参ります。


【関連記事】

著作権行政に関する情報


【参考資料】

令和6年度

・第1回 令和6年5月20日【議事録・配布資料

・第2回 令和6年7月31日【議事録・配布資料

・第3回 令和6年10月21日 【議事録・配布資料

・第4回 令和7年1月20日【議事録・配布資料

・第5回 令和7年3月3日【議事録・配布資料

・第6回 令和7年3月18日【議事録・配布資料

 

【著作権行政に関する情報集】


 

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