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【行政情報】成年後見制度はどう変わるのか?―いま議論されている見直しのポイント<法制審議会民法(成年後見等関係)部会第17回会議(令和7年4月8日開催)より>


高齢化や認知症の増加を背景に、成年後見制度の見直しが本格化しています。法務省の諮問機関である法制審議会民法(成年後見等関係)部会では、2025年4月現在、改正に向けた議論が進行中です。

2025年4月8日に開催された第17回会議では、「中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台」が示され、今後の制度の在り方について方向性の検討が行われました。

「たたき台」では「本人の関与」に重点をおきつつ、現行制度の不都合な部分を改善しようと、積極的な検討が行われています。


本稿では「たたき台」を参考にして、現在の議論のポイントをまとめます。


1.なぜ見直すのか?〜現行制度の課題と限界

現行の成年後見制度は、本人の判断能力(法律的には「事理を弁識する能力」)の程度に応じて「後見・保佐・補助」の3類型に分類されています。しかし、実務運用の中で次のような問題が明らかになってきました。


ー利用の柔軟性が乏しい

一度後見が始まると、本人の判断能力が「回復」しない限り、制度を終了できません。現実には、認知症や障害による判断能力の回復は困難であり、「もう後見は必要ない」と思っても辞められないことがあります。

ー必要以上の権限制限

 たとえば、財産管理などの一部支援だけで足りる場面でも、包括的な代理権や取消権が自動的に与えられてしまうことがあり、本人の意思や能力を無視した制約が生じます。

ー本人の意思が軽視されがち

特に本人の同意が不要な場面で制度が始まると、「自分の生活なのに、自分で決められない」と感じる方が多く、権利制限に対する違和感が残ります。このような制度の“硬直性”が、使いづらさや本人不在の運用を生み出してしまっているのです。



2.制度の選択肢を柔軟に ~ 新たに検討されている2つの案

今回の議論では、現行制度を維持しつつ必要な修正を加える「甲案」と、制度の根本的な枠組みを見直す「乙案」が提案されています。特に注目すべきは、柔軟な対応を可能とする2つの乙案です。


【甲案】現行制度を維持しつつ必要な修正を加える制度改正

  • 現行法の規律の基本的な枠組み(事理を弁識する能力を欠く状況にあるもの)については後見を開始

  • 補佐の枠組みを維持し、所要の修正を行う。

  • 所要の修正としては、法定後見に係る期間を設けるとの考え方、民法第13条第1項各号の規律を見直すとの考え方、事理弁識能力を欠く常況にある者が保佐及び補助の制度を利用すること並びに事理弁識能力が著しく不十分である者が補助の制度 を利用することを許容する考え方、後見開始の審判の要件審査を厳格にするために手続に関する規律を見直すとの考え方がある(これらの複数の修正をするとの考え方もある。)。


【乙1案】本人のニーズに応じて“必要な範囲だけ”保護する制度

  • 判断能力が一部不十分な方を対象とし、特定の法律行為だけに後見的支援(代理権・同意権)を付与

  • 包括的な後見制度(すべての財産や行為が対象)を避け、必要な場面だけ限定的に支援する柔軟な仕組み

  • さらに、本人の同意が必要という原則が設定されており、本人の自己決定を尊重します。


【乙2案】重度の場合は包括保護+限定保護のハイブリッド型

  • 【乙1案】の考え方を基礎に、判断能力が著しく低下した方(例:意思無能力状態)には、あらかじめ定めた範囲で保護者の代理権や取消権を自動的に付与

  • 一方で、それ以外の行為については、個別に判断し、保護が必要ならば追加的に権限を与える仕組みとすることで、濫用や過剰な権限集中を防ぎます


どちらも「一律・包括的な制度」から、「段階的・選択的な制度」へ移行しようとする方向性が共通しています。



3.本人の「同意」がより重視される方向に

これまでの制度では、特に「後見」類型においては、本人の同意がなくても開始できる場面がありました。しかし、今回の見直し案では、可能な限り本人の意思を確認し、同意がある場合に限って制度を適用する方向が明確に打ち出されています


補助・保佐の一部では現行法でも「本人の同意」が要件ですが、これを後見類型にも拡大する方向で検討されています。ただし、本人に法的な判断能力(同意能力)が明らかに欠けている場合や、急迫な危険がある場合には、例外的に同意を不要とすることも想定されています。

このように、「本人のため」という名目で制度が本人の意に反して始まることを防ぎ、本人の権利意識や意思決定を最大限尊重する制度へとシフトしようとしています。



4.「後見」よりも他の支援方法を優先

法定後見制度の利用を検討する際、まずは他の方法で解決できないかを考えるべきという意見も広がっています。これを「補充性の原則」といいます。

例としては以下のような代替手段があります。


ー任意後見契約: 元気なうちに将来を見越して契約しておく制度

ー委任契約・信託: 家族や第三者に一部の事務を委託する方法

ー行政支援・地域包括支援センターの相談対応 など


これらの支援で目的が果たせる場合には、重い制約を伴う法定後見制度は最後の選択肢とすべきという考え方です。ただし、「他の支援があるから法定後見は使えない」と機械的に判断するのではなく、その場の実情に応じて必要性を丁寧に判断するという柔軟な姿勢も提案されています。


5.「精神上の障害」という表現も見直しへ

民法の条文では、判断能力が低下している理由として「精神上の障害」という表現が用いられています。しかし、近年ではこの表現に対して、「差別的・画一的な印象を与える可能性がある」「現在の価値観にそぐわない(多様な状態を想定すべき)」という指摘がなされています。

部会では、「精神上の障害」の代わりに、「精神上の理由」「心身の故障」「意思形成に影響する状態」など、より中立的・本人の尊厳に配慮した表現を用いるべきかどうかが慎重に検討されています。


6.成年後見制度に行政書士はどう向き合うべきか

これまで那住行政書士事務所では、成年後見に関するご相談を受けた時、原則として、上記4で検討されているような方向性で、ご相談に応じていました。それは今回、議論されているように、成年後見制度は必要な制度ではありますが、本人への影響を考えた場合、積極的に進められる制度かと考えた場合、疑問があったからです。法制審議会の議論を通じて、より使いやすい制度に改められることを望んでいます。


では、制度改正が進むなか、行政書士は成年後見制度にどのように向き合っていくべきなのでしょうか。結論から言えば、行政書士が果たすべき役割は一層重要になるのではと考えています。


―「制度利用の入り口」を担う専門家として

行政書士は、制度利用初期において、

・任意後見契約の支援(公正証書作成)

・制度選択の助言(任意後見か法定後見か)

・必要な書類の整備

などを通じ、利用者にとっての第一の相談窓口として、行政書士の果たすべき役割はいっそう重要になると考えます。


ー「自己決定支援」の伴走者として

本人の意向をくみ取り、

・意思表明の補助や書面化

・必要に応じた信託・委任等との併用

を提案することで、本人中心の支援を形にする役割を担います。


ー「補完的支援策」の設計者として

行政書士は、制度の隙間を埋める法的支援策の提案が可能です。

・任意後見+信託などの組合せ設計

・中小企業経営者への財産管理提案

・行政・福祉資源との連携


ー「地域に根差した継続支援」の担い手として

成年後見制度は長期支援が前提です。行政書士は、

・見守り契約や任意後見人の受任

・地域ネットワークとの連携支援

を通じて、持続的な制度運用の現場支援を行うことが可能です。


ー制度改革に対する「現場からの声」を届ける役割

行政書士は、実務現場での課題を制度設計に反映させる立場にもあります。

・制度利用の実態把握

・任意後見の実務課題の共有

・補完的支援との整合性の検討


一つ残念な現状として、このような重要な法改正の議論に、行政書士は参加できていません。法制審議会民法(成年後見等関係)部会の委員には、弁護士、司法書士、そして社会福祉士は選任されていますが、行政書士は選ばれていない現状があります。司法書士は連合会から委員を出しているだけではなく、成年後見センター・リーガルサポートという、司法書士による成年後見団体からも委員を輩出しています。


行政書士もコスモス成年後見サポートセンターという同じ組織を持っているだけに、この現状は非常に残念に思います。



まとめ:これからの成年後見制度は「自己決定」と「柔軟な支援」がカギ

成年後見制度の見直しは、私たち一人ひとりの人生に深く関わるテーマです。特に、判断能力が衰えてきたときに、どのような支援を受けながら、どこまで自分で決めていけるのか、その仕組みをつくり直すことが、今回の議論の本質です。


こうした制度の動向を注視しながら、ご本人やご家族の「これからの生活」に本当に合った支援方法をご提案していくことが、行政書士として必要だと考えます。


制度の選び方や申立手続についてご不明な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。



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