相続した土地について、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りの土地に迷惑がかかるから管理が必要だけど、負担が大きい」といった理由により、土地を手放したいというニーズにこたえるため、令和5年4月27日から「相続土地国庫帰属制度」がスタートします。
これは管理できない土地が放置され、将来、「所有者不明土地」が発生することを予防するため、相続又は遺贈(遺言によって特定の相続人に財産の一部又は全部を譲ること)によって土地の所有権を取得した相続人が、
一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とするものです。
民法239条2項には「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」とありますが、相続で得た土地は相続人が所有者となるため、これまでは国庫帰属にはなりませんでした。相続財産のすべてを放棄することは、これまでもできましたが、「不動産だけを放棄したい」というような制度は存在してませんでした。
しかし今回、法整備が行われ、現在、制度の開始に向けた準備を進められています。
制度開始後は一定の要件を満たし、申請を行い、承認されれば、土地を手放すことが可能となります。
現在、以下のページで法務省より各種情報が公開されています。
「相続土地国庫帰属制度の概要」(法務省) https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html
▼申請のハードルは?
さて、本制度ができるとして、果たして本制度はどの程度の使いやすさなのでしょうか。現時点で公開されている情報から見る限り、なかなか申請のハードルは高いのではないかと思います。
不動産を放棄するまでのステップとしては……
①申請承認 →②法務局による審査・承認 →③申請者が10年分の土地管理相当額の負担金を納付 →④国庫帰属
とまっております。土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けた方が、一定の負担金を国に納付した時点で、 土地の所有権が国庫に帰属します。
しかし申請できる土地は限られており、現時点で法(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)により、以下の土地については、まず申請すらできないということになっています。(ただし今後、政令で更に詳細な要件を定めるとされています。)
(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)
A 建物がある土地
B 担保権や使用収益権が設定されている土地
C 他人の利用が予定されている土地
D 土壌汚染されている土地
E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
さらに申請ができても、以下の土地については承認をうけることができないとされています。
(2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)
A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
これまで当事務所にご依頼・ご相談いただいた相続事案で、「使わない不動産がある」事例においては、田舎の生家が、建物から残っているケースなどがほとんどです。このような場合、まずは建物の撤去を、相続人の費用で行わなくてはなります。
▼負担金について
前述の通り、国庫帰属させるためには「負担金の納付」も必要となります。この負担金については、現在、以下のような案がでています。
宅地 20万円(ただし一部市街地など例外あり)
田、畑 20万円(ただし一部市街地など例外あり)
森林 面積に応じ算定 (1,500平米 約72万円 など)
その他 20万円
その他もろもろ例外あり。
詳細は
率直な感想としては、まともな金額かなと。令和4年9月4日まで、負担金についてはパブリックコメントが募集されています。
本制度は、今後、相続の実務において大きな影響のある大変重要な新制度です。本ホームページでも随時情報をお伝えしてまいります。
※本記事は投稿日現在の法律・情報に基づいた記載となっております。また記事には当事務所の独自の解釈が含まれている場合もございます。記載には誤り等がないよう細心の注意を払っておりますが、誤植、不正確な内容等により閲覧者等がトラブル、損失、損害を受けた場合でも、執筆者並びに当事務所は一切責任を負いません。
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