NEWS CLIP|気になった法務・政策ニュース|2026年9月6日 from那住行政書士事務所(026)
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AIに関するニュースは日本だけでなく、世界で様々な動きを見せています。各国のそれぞれ法の建付けが違うの、一概に各国の状況を比較はできませんが、インターネットで情報の国境がほとんど存在しない現在。その状況をしっかり把握しておく必要はあるかと思います。AIと著作権をめぐって米司法省がかなり踏み込んだ姿勢を示しました。「AI開発は重要だから」という政策判断が、著作権法の解釈にどこまで入り込んでよいのか。これは日本にとっても他人事ではありません。
そのほか、会社法改正で検討される「実質株主」、熊本で被災者宅を回る行政書士、WIPOの知財教育、そして辞職を表明した横浜市長への「再出馬要請」。今日は、制度の話から横浜の政治まで、様々な話題を徒然に記したいと思います。
01|AI学習はフェアユース――米司法省がNYT訴訟でOpenAI側を支持
02|名簿の株主と「本当の株主」――会社法改正で実質株主確認制度を検討
03|辞職した市長に「もう一度」?――山中横浜市長への再出馬要請に思う
04|被災者宅まで行政書士が出向く――熊本地震で罹災証明申請を支援
05|知財は難しい法律の話だけではない――WIPO日本事務所が短編動画を公開
那住行政書士事務所HP https://www.nazumi-office.com/
01|AI/COPYRIGHT|AI学習はフェアユース――米司法省がNYT訴訟でOpenAI側を支持
米ニューヨーク・タイムズなどが、記事を生成AIの学習に無断利用されたとしてOpenAIやMicrosoftを訴えている裁判で、米司法省が9月1日、ニューヨーク南部地区連邦地裁へ意見書を提出しました。
朝日新聞は「AIの記事学習、著作権侵害でない」という見出しで報じています。海外のニュースサイトでもReuters、AP、Washington Post、Bloomberg Lawなどが一斉に報じており、司法省がOpenAI側の主張を支持し、著作物を大規模言語モデルの学習に利用する行為を米国著作権法上の「フェアユース」と評価すべきだと裁判所に求めたとのことです。
ただし、ここは見出しだけで理解するとことの本質を見誤ります。「米国でAI学習は合法になった」というニュースではありません。
司法省が裁判所へ提出したのは政府の「statement of interest(意見書)」であって、判決ではありません。この事件でAI学習がフェアユースに当たるかどうかを最終的に判断するのは裁判所です。米国のフェアユース判断自体も、利用目的、著作物の性質、利用された量、市場への影響などを考慮して行われます。
それでも今回の意見書が重いのは、司法省が単なる著作権法の解釈を超えて、AIを米国の国家戦略として位置付けているからです。Reutersによれば、政府側はAI開発が科学の進歩だけでなく国家安全保障や経済発展にとって重要だと主張しています。Washington Postも、米国のAI産業の成功を「重要な国家安全保障上の利益」と位置付けていると報じています。
ここまで来ると、話は「新聞記事をAIに読ませてもよいですか」という著作権の問題だけではなくなります。
AI開発には膨大なデータが要る。そこへ一件一件ライセンス料を要求すれば開発コストが跳ね上がり、結局は莫大な資金を持つ巨大企業しかAIを作れなくなる。さらに中国などとのAI競争にも不利になる――米政府の問題意識は、おおむねそういうことでしょう。
理屈は分かります。しかし著作権の側から見ると、かなり乱暴ではないかとも感じます。新聞社は記者を雇い、取材費を払い、海外に特派員を送り、何年もかけて記事のアーカイブを築いてきました。その膨大な成果物をAI企業がモデル開発に利用し、そこから巨大な企業価値を生み出す。そのとき「AIは国家的に重要だからフェアユースです」で全部済ませてしまえば、コンテンツを作る側からすればたまったものではありません。
NYT側も、政府の立場は巨大テック企業を優遇するものだとして反発しています。そして興味深いのは、まさにこの問題について、日本政府が少し違う方向を模索していることです。
先日のNEWS CLIPでも取り上げたように、日本の「知的財産推進計画2026」は、AI開発を促進しながら、著作物データの有償提供や契約、技術的措置なども組み合わせ、クリエイターへの対価還元を図ろうとしています。米国が「フェアユース」をAI競争力の武器として強く押し出す一方、日本は権利者との調整を重視する。
どちらが正解かは、まだ分かりません。ただ、一つだけ気になることがあります。
「中国に負けるな」「AI競争に負けるな」という話が強くなればなるほど、著作権者の権利は邪魔な規制として扱われやすくなります。しかし、AIが学習する文章も写真もイラストも、空から降ってきたわけではありません。誰かが時間を使い、頭を使い、お金を使って作ったものです。
AI産業を育てることと、その材料を作る産業を痩せさせないこと。この二つを同時に考えなければ、最後にはAIが学習する良質なコンテンツそのものが減っていく。AIという巨大な料理店を繁盛させるために、食材を作る農家には「公共の利益ですから無料でお願いします」と言い続けてよいのか。
今回の米司法省の意見書は、そんな根本的な問題を改めて突き付けているように思います。
参考:
朝日新聞「米司法省『AIの記事学習、著作権侵害でない』 NYT訴訟で意見書」https://www.asahi.com/articles/ASV9320VYV93UHBI00HM.html
Reuters「US government backs OpenAI in New York Times copyright case」https://www.reuters.com/legal/litigation/us-government-backs-openai-new-york-times-copyright-case-2026-09-02/
AP「Trump administration backs OpenAI in New York Times' copyright case over training of chatbots」https://apnews.com/article/dbb22e8e02c660ee5a8644915dec39a4
Bloomberg Law「Trump Administration Backs OpenAI in NY Times Copyright Suit」https://news.bloomberglaw.com/ip-law/trump-administration-backs-openai-in-ny-times-copyright-suit
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02|COMPANY LAW/GOVERNANCE|名簿の株主と「本当の株主」――会社法改正で実質株主確認制度を検討
株主とは誰でしょう。会社法の教科書なら、株主名簿を開けば分かる、と答えればよさそうです。ところが上場企業になると、話はそんなに単純ではありません。
株式が信託銀行やカストディアンなどの名義で保有され、その背後に国内外の機関投資家など実際に投資判断をしている者がいる場合、会社から見れば「名簿には名前がないけれど、実質的には自社株を大量に持っている投資家」が存在することになります。日経新聞が取り上げた「本当の株主」とは、そうした実質株主の問題です。
法務省の法制審議会では現在、会社法制の見直しが進められており、実質株主確認制度も正式な検討項目に入っています。2025年6月の第3回会議、2026年1月の第10回会議に続き、6月24日の第15回会議では「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案」の取りまとめに向けた論点として、改めて実質株主確認制度が審議されています。
なぜ、こんな制度が必要になるのか。一つには企業と株主との対話があります。企業が経営方針や資本政策について株主と話をしたいと思っても、誰が実質的に株を持っているのか分からなければ、そもそも話し相手が見つかりません。アクティビスト投資家が株式を取得している場合などには、経営陣にとってその把握はさらに切実でしょう。
もう一つは株主総会です。会社法上の株主総会は、株主が経営陣を監督し、取締役を選び、重要事項を決定する会社統治の中心的な機関です。しかし資本市場が国際化し、株式保有の仕組みが複雑になった結果、会社から「誰が自分の会社を持っているのか」が見えにくくなっている。
これは少々妙な話です。飲食店なら、店のオーナーが誰か分からないまま店長が経営しているようなものです。もっとも、実質株主を全部把握できれば万事解決というほど簡単でもありません。投資家側には、自らの投資戦略をどこまで企業に知らせるのかという問題があります。保有情報をどの範囲で、誰が、どのタイミングで開示するのか。海外投資家や複雑な保有構造をどう扱うのか。情報提供義務を厳しくし過ぎれば、日本市場への投資をためらわせる可能性もあります。
ですから制度設計は慎重であるべきでしょう。ただ、現在の会社法が前提としてきた「株主名簿を見れば株主が分かる」という世界と、現代の資本市場との間にずれが生じていることは確かです。会社法は、ときどき非常に古典的な顔をしています。株主がいて、株主総会に集まり、手を挙げて決議する。
ところが現実の株式は世界中を電子的に移動し、投資ファンドや信託を何層も通り、株主総会そのものもオンライン化されようとしている。法律の教科書に載っている「株式会社」と、証券市場で実際に動いている「株式会社」が、だんだん別の生き物になってきました。
今回の会社法改正は、そのずれをどこまで埋められるのか。
企業法務に関わる人には、かなり重要な改正になりそうです。
参考:
日本経済新聞「『本当の株主』把握できるか 会社法見直しで変わる株主総会」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB26AOY0W6A620C2000000/
法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会 第15回会議」https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00339.html
法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会 第16回会議」https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00340.html
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03|YOKOHAMA/POLITICS|辞職した市長に「もう一度」?――山中横浜市長への再出馬要請に思う
これは、地元横浜の話なので少し厳しく書きます。
職員へのパワーハラスメント問題を受けて辞職を表明した山中竹春横浜市長に対し、横浜港運協会など港湾関係3団体が、市長選への再出馬を要請していたと朝日新聞が報じました。
報道によれば、これまで進めてきた政策の継続を求める一方、パワハラ問題について山中氏が「猛省」することを条件とした要請だとされています。
私は、再出馬には反対です。これは山中市政の政策を全部否定するという話ではありません。
山中市長は8月28日の記者会見で、自ら「今回のことに、けじめをつけるべきだ」と述べ、市長辞職を決断したと説明しています。横浜市会には8月28日に正式に辞職願が提出されました。
ならば、その「けじめ」とは何だったのでしょう。辞職して、その直後の選挙に出て、当選したらまた市長に戻る。それをやってしまえば、辞職という政治的責任の取り方そのものが、随分と軽いものになります。
もちろん法的には、辞職した首長が出直し選挙へ立候補すること自体はあり得ます。そして最終的に市長を選ぶのは横浜市民です。しかし「立候補できる」と「立候補することが適切である」は別の話です。今回の問題は、政策論争で市長が敗れたという話ではありません。
市役所という組織のトップと、その下で働く職員との関係が問われた問題です。そこを忘れてはいけないと思います。
パワハラを「猛省」すれば再出馬してよいというのであれば、被害を受けた側はどう感じるでしょう。仮に再び市長になれば、市職員は再び同じ組織のトップの下で働くことになります。組織のコンプライアンスという観点から考えても、私はそこにかなり強い違和感があります。企業で考えてみれば分かりやすい。社長のハラスメント問題が発覚し、「責任を取って辞任します」と退任した。その数週間後、主要取引先や業界団体が「十分反省したなら、また社長をやってください」と言い出す。少なくとも私は、健全なガバナンスの姿には見えません。
さらに言えば、横浜市長は特定業界の代表者ではありません。港湾政策は横浜にとって極めて重要ですが、市長が向き合う相手は港湾業界だけではなく、約370万人の市民です。業界団体が誰を支援し、誰に出馬を要請するかは自由です。しかし今回については、「これまでの政策を継続してほしい」という事情と、「市政への信頼をどう回復するのか」という問題を混同すべきではないでしょう。
政策は別の市長でも継承できます。市長が替われば全部リセットされるわけではありません。一方、一度失われた組織への信頼を回復するのは簡単ではない。辞職を「けじめ」と呼んだ以上、その言葉には重さがあってほしいと思います。
横浜は370万人を抱える日本最大の基礎自治体です。次の市長選では、「誰なら勝てるか」ではなく、「誰なら横浜市役所という巨大な組織を健全に率いることができるのか」を、きちんと問う選挙になってほしい。少なくとも、辞職してすぐ元の椅子へ戻ることを「出直し」と呼ぶような政治には、私は賛成できません。
参考:
朝日新聞「辞職表明の山中市長に再出馬要請 横浜港運協会、パワハラ猛省が前提」https://www.asahi.com/articles/ASV933SVDV93ULOB008M.html
横浜市「山中市長からの退職の申し出について」https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/shikai/2026/0828taisyoku.html
横浜市「市長定例記者会見(令和8年8月28日)」https://www.city.yokohama.lg.jp/mayor/kishakaiken/kaikenyoshi/2026/20260828.html
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04|DISASTER/ADMINISTRATION|被災者宅まで行政書士が出向く――熊本地震で罹災証明申請を支援
熊本から、行政書士の仕事を考えさせられるニュースです。令和8年熊本地震の被災者を支援するため、熊本県行政書士会の行政書士が被災者宅を訪問し、罹災証明書の申請を無料で支援しています。
9月3日のテレビ熊本の報道では、八代市の一人暮らしの被災者宅を行政書士が訪問。被害状況の写真を確認し、本人のスマートフォンを使ったオンライン申請を手伝う様子が紹介されました。これは単発の活動ではありません。
熊本県行政書士会は地震後、宇土市、宇城市、八代市、益城町、氷川町、甲佐町などへ行政書士を派遣し、自治体窓口で罹災証明書の受付・手続支援を実施。8月末で一部の窓口支援を終えた後も、宇城市の二次調査申請窓口への派遣や電話相談などを続けています。
行政のデジタル化は必要です。
しかし災害時、自宅が壊れ、家族のことを心配し、生活再建を考えなければならない人に「オンラインで申請できます」とURLを一つ渡して、それで行政サービスが完了したことにはなりません。
デジタル化が進めば進むほど、最後に必要になるのは人間なのかもしれません。
被災者の家まで行き、一緒に写真を確認し、スマートフォンの画面を見ながら申請を手伝う。
行政書士という仕事の価値が、非常に分かりやすく見える活動だと思います。
参考:
テレビ熊本「罹災証明書の申請サポート 行政書士が被災者宅を訪問【熊本】」https://www.tku.co.jp/news/?news_id=20260903-00000012
FNNプライムオンライン「罹災証明書の申請サポート 行政書士が被災者宅を訪問【熊本】」https://www.fnn.jp/articles/-/1107514
熊本県行政書士会「令和8年熊本地震に係るり災証明受付支援事業について」https://www.kumagyou.jp/news/%E4%BB%A4%E5%92%8C8%E5%B9%B4%E7%86%8A%E6%9C%AC%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%81%AB%E4%BF%82%E3%82%8B%E3%82%8A%E7%81%BD%E8%A8%BC%E6%98%8E%E5%8F%97%E4%BB%98%E6%94%AF%E6%8F%B4%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E3%81%AB%E3%81%A4/
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05|IP/EDUCATION|知財は難しい法律の話だけではない――WIPO日本事務所が短編動画を公開
最後は少し明るい話題を。
WIPO(世界知的所有権機関)日本事務所が監修した、身近な知的財産を紹介する約10分の短編動画が公開されています。
WIPOの記録でも、8月5日に神戸で開催されたSSH生徒研究発表会へ日本事務所が参加したことが確認できます。動画は8月5、6日の同発表会で放映されたもので、特許、意匠、商標、著作権だけでなく、GI(地理的表示)、育成者権、伝統的知識まで、日常生活の中にある題材から知財を紹介しています。
知財教育というと、どうしても「特許権とは何年間でしょう」「著作権はいつ発生するでしょう」という制度説明になりがちです。
しかし本来、知財の入口はもっと単純でいい。
なぜ、この商品の形は他と違うのか。なぜ、このロゴを見ると会社が分かるのか。新品種の果物を作った人は、どうやって利益を得るのか。好きなイラストを勝手にコピーして売ってはいけないのはなぜなのか。
そういう日常の「なぜ」から入った方が、法律の条文を一ページ目から読ませるより、はるかに知財の本質が伝わります。
10分程度なら学校の授業でも使いやすい。知財教育は、知財の専門家を増やすためだけにするものではありません。自分が何かを作ったとき、それには価値があるかもしれない。
まず若い人にその感覚を持ってもらうことの方が大切だと思います。
参考:
WIPO「Technical Assistance Database ― SSH presentation conference」https://www.wipo.int/tad/en/activitysearchresult.jsp?vcntry=JP
WIPO日本事務所監修「日常にあふれる知的財産」動画https://multimedia.wipo.int/wipo/ja/about-wipo/offices/japan/wjo-promotion-video-2026-480p.mp4
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あとがき
最近、文章を書くときに、以前より「分からない」と書くことを気にしなくなりました。
昔は、何かについて書く以上、最後にはきれいな結論を出さなければいけないような気がしていました。賛成なのか反対なのか、正しいのか間違っているのか。新聞の社説ならともかく、個人が書く文章まで毎回判決文のように結論を出す必要もないのですが、どうも人間は話を丸く閉じたくなるものです。
ところが仕事を長くやっていると、世の中には簡単に答えの出ない問題の方が多いことが分かってきます。法律などは特にそうでしょう。
条文を読めば答えが書いてある問題もありますが、面白いのはその先です。同じ制度でも立場が変われば見え方が違い、技術が変われば昨日までなかった問題が出てくる。だから最近は、「これはまだ分からない」と思ったら、無理に答えを作らず、そのまましばらく机の上に置いておくのも悪くないと思っています。
もっとも、机の上には本当に「しばらく置いてある書類」もあります。こちらは思想ではありません。早く片付けなければいけません。
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