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NEWS CLIP|気になった法務・政策ニュース|2026年8月19日


8月も後半に入りました。


法律や行政をめぐるニュースを追っていると、正解が一つに決まらない問題が少なくありません。

今回最初に取り上げる災害時の死者氏名公表も、その典型ではないでしょうか。社会として知る必要性がある一方で、亡くなった人や遺族のプライバシーがあります。

生成AIについても同じです。クリエイターの権利を守る必要がある一方、規制の方法によっては日本企業だけが不利になる可能性があります。


今日のNEWS CLIPでは、こうした「一方を守れば、それですべて解決するわけではない」問題を中心に、法律や制度、社会の動きを見ていきます。


那住行政書士事務所HP https://www.nazumi-office.com/

01|DISASTER/PRIVACY|災害時の死者氏名は「直ちに公表」――神奈川県の方針をどう考えるか


災害が発生した際、亡くなった人の氏名を行政が公表するべきかどうか。

大規模災害が起こるたびに議論になる問題について、神奈川県の黒岩祐治知事が見解を示しました。

報道によれば、黒岩知事は、県内で大規模災害が発生した場合、原則として死者の氏名を「直ちに公表する」とする考えを示しています。この問題は、近年の災害で自治体によって対応が分かれてきました。個人情報保護や遺族への配慮から氏名を非公表とする自治体がある一方、安否確認や同姓同名による混乱の防止、被害状況の正確な把握といった公益上の理由から公表する自治体もあります。千葉県はこの度の豪雨災害で、死亡者の氏名を非公表としました。


私は、黒岩知事の説明そのものは筋が通っていると思います。

特に重要だと思うのが、報道するかどうかは「情報提供を受けたメディアが考えることであり、行政が判断することではない」という趣旨の考え方です。

行政による情報提供と、報道機関による報道は、本来別の問題です。

行政は公益上必要な情報を提供する。その情報をどこまで報道する必要があるのか、実名を出すことにどのような社会的意味があるのかは、報道機関が自らの責任で判断する。役割分担としては、その方が分かりやすいと思います。


ただ、私はこの問題について、だからすべての死者の氏名を当然に公表すべきだ、とまでは思いません。


「死」は、極めて個人的な情報でもあります。

本人が自分の死を広く知られたくないと考えていた可能性もありますし、遺族が公表を望まないこともあるでしょう。本人や遺族の意思が尊重されることは非常に重要だと思います。

また、「死を公表しない」ことによって現実的な利益が生じる場合もあります。

例えば家族関係や財産関係、事業上の事情など、死亡の事実が広く知られることによって影響を受けることは考えられます。その人にとっての「利益」が、別の人にとっては「不利益」になることもあり得ます。つまり、単純なプライバシーの問題だけではなく、複数の利害が交錯しています。


もう一つ考えたいのは、通常の死亡との違いです。


人が病院や自宅で亡くなった場合、行政がその人の氏名を一律に社会へ公表する制度にはなっていません。そうであるなら、「災害で亡くなった」という理由だけで、なぜ行政による実名公表が当然になるのかという問いは残ります。一方で、大規模災害では安否不明者の捜索や重複通報の解消など、平時とは異なる公益上の必要性があるのも事実です。


だから難しい問題なのだと思います。


そして行政以上に考えてほしいのが、メディアの側です。実名を報道する公益性がある場合は当然あるでしょう。しかし、実名を知った後に家族や知人を訪ね歩き、悲しんでいる遺族のコメントや涙を撮影することまで、常に公共性のある報道なのか、私は疑問に思うことがあります。


公的に伝える必要のある情報と、亡くなった人や家族に属する私的な領域との間には、もっと明確な線を引くべきではないでしょうか。災害報道だからこそ、被害の大きさを伝えることと、個人の悲しみを消費することは分けて考えてほしいと思います。


黒岩知事の発言をきっかけに、単純な「実名公表か匿名か」ではなく、行政、報道機関、そして個人それぞれの立場から議論を深める必要がある問題だと思います。


参考記事:

02|AI/INTELLECTUAL PROPERTY|生成AIの学習データを公開へ――「ソフトロー」でどこまで知財を守れるか


生成AIと著作権をめぐり、政府が新しい知的財産保護策を検討していることが報じられました。

読売新聞によると、政府案では、生成AI事業者に対してAIの学習に利用したデータに関する情報の公開や、著作権者から求めがあった場合の情報開示などを求める方向です。

対象には海外のAI企業も含める一方、違反した場合の罰則は設けず、事業者が自主的に守るべき指針として整備する方向だとされています。


生成AIと著作権については、これまでもこのNEWS CLIPで何度か取り上げてきましたが、今回のポイントは「何を違法にするか」という話だけではありません。AIを開発する企業に対して、どのような透明性を求めるのかという問題です。生成AIの学習には膨大なデータが必要です。その中に著作物が含まれていたとしても、権利者から見れば、自分の作品がどのように利用されたのかを外部から確認することは簡単ではありません。


そこで一定の情報公開を求めることには意味があります。


特に権利者から具体的な照会があった場合、学習データとの関係を確認できる仕組みを整えることは、AI企業とクリエイターの間の信頼関係をつくるという意味でも重要でしょう。

ただし、私は今回の制度について、「ソフトローとしての整備で、どこまで実効性を担保できるのか」という点が非常に気になります。


法律で一律に禁止して罰則を科すのではなく、ガイドラインや指針によって事業者の自主的な対応を促すソフトローには、技術の変化へ柔軟に対応できる利点があります。生成AIのように技術革新のスピードが速い分野では、法律を作った時点で既に技術が先へ進んでいるということも起こり得ます。その意味では、ソフトローを活用する考え方自体は合理的です。

問題は海外企業です。


日本政府がガイドラインを作ったとして、世界的なAI企業にどこまで日本のルールを意識させることができるのか。ここが実効性を左右すると思います。さらに注意したいのは、日本企業だけが過度に萎縮することです。


国内企業は日本政府の指針を真面目に守り、多大なコストをかけて情報開示や権利者対応を行う。一方、海外企業は十分に対応しないまま日本市場でサービスを提供し続ける。もしそうなれば、知的財産を守るための制度が、日本のAI産業だけに負担を課す結果になりかねません。

それでは本末転倒です。


クリエイターの権利保護は必要です。しかし同時に、日本のAI企業が国際競争から取り残されない制度設計も必要です。


生成AI政策では「AIか著作権か」という二者択一にしてはいけないと思います。


AI産業を育てることと、クリエイターが安心して作品を発表できる環境をつくること。その両方を成立させる制度をどう作るのか。

今回の政府案は、その難しいバランスを探る一つの試みとして注目したいと思います。


参考記事:

03|AI/PRIVACY|生成AIに「秘密」を渡さず使う――企業利用で次に問われる情報管理


生成AIの利用が企業や専門職の現場に広がるにつれて、著作権と並んで重要になっているのが情報管理です。


8月に公表された研究では、外部の大規模言語モデルを利用する際、文書に含まれる機密情報をそのままAIへ送らず、氏名や組織名などのセンシティブな情報を別の表現へ置き換えて処理する仕組みが提案されています。この発想は、企業における生成AI利用を考えるうえで非常に重要だと思います。


「生成AIに個人情報や機密情報を入力してはいけない」とルールを決めることはできます。


しかし、業務で本格的にAIを使おうとすれば、契約書、顧客から受け取った資料、社内文書などを扱いたい場面は当然出てきます。そこで必要になるのは、「使うか、使わないか」という二択ではなく、どの情報なら入力できるのか、入力できない情報をどのように加工すれば利用できるのかという実務的な仕組みです。


例えば、契約書のチェックをAIに補助させる場合でも、当事者名や担当者名、取引金額などをそのまま外部サービスへ渡す必要がないケースはあります。分析に必要な部分と、秘匿すべき部分を切り分けることができれば、リスクを下げながらAIを利用できます。


企業の生成AI利用は、これから「使ってよいか」という段階から、「どうすれば安全に業務へ組み込めるか」という段階へ進んでいくでしょう。


そのとき重要になるのは、AIそのものの性能だけではありません。


社内規程や秘密保持義務、個人情報保護、取引先との契約、利用するAIサービスの規約やデータの取扱いまで含めたルール設計が必要になります。便利な技術だから使う。それだけでは、企業利用としては不十分です。安心して使える仕組みまで作ることが、これからのAI導入では重要になってくると思います。

参考:


04|INTELLECTUAL PROPERTY/PATENT|特許を「AIで探す」技術も進化――知財実務はどう変わるか


AIと知的財産でもう一つ興味深い研究が発表されています。


8月11日に公開された研究では、大規模言語モデルとRAGを組み合わせ、特許文書から重要な技術要素を抽出して、関連する特許をより正確に検索・照合する仕組みが提案されています。


特許文書は独特です。


同じ技術を説明していても、企業や発明者によって使う言葉が違うことがあります。単純なキーワード検索だけでは、重要な先行技術を見落とす可能性があります。

そこでAIが文章の意味や技術的な関係まで読み取り、「言葉は違うけれど技術的には近い特許」を探せるようになれば、特許調査の方法はかなり変わるかもしれません。

これは特許に限った話ではありません。


法律実務でも、判例、行政資料、契約書、法令など大量の文書から必要な情報を探す仕事があります。


AIによって「検索」が変わるということは、専門家の仕事にも大きな影響があります。

ただし、ここでも最後に必要なのは人間の判断です。


AIが「似ている」と判断した特許が、法律上本当に新規性や進歩性を否定するものなのかは別問題です。


AIによって調査を速く、広くする。そのうえで法的な意味を専門家が判断する。

生成AIは専門家そのものを置き換えるというより、専門家が情報へ到達する方法を大きく変えていくのかもしれません。

参考:

05|PRIVACY/DIGITAL|誰も読まない「プライバシーポリシー」――AI時代に説明のあり方も変わる?


ウェブサイトやアプリを利用すると、ほぼ必ず目にするのがプライバシーポリシーです。

しかし、最初から最後まで読んでいる人は、どれほどいるでしょうか。

8月に公表された研究では、2010年から2025年までに発表された290本の研究を分析し、プライバシーポリシーなどの文書がどのように作られ、分析され、法令との整合性を確認され、利用者に提示されてきたのかを整理しています。


これは実務でも非常に身近な問題です。


個人情報の取扱いについて、事業者が適切なプライバシーポリシーを作成することは重要です。しかし、法律上必要な事項を漏れなく書こうとすれば、どうしても文章は長く、難しくなります。結果として、「きちんと説明するために作った文章なのに、誰も読まない」という矛盾が生まれます。


特にAIサービスでは、入力した情報がどのように処理されるのか、学習に利用されるのか、どこに保存されるのかなど、利用者が知りたい情報も増えています。

重要なのは、単に長い規約を掲載して「同意する」ボタンを押してもらうことではないでしょう。


何が重要なのかを利用者が理解できる形で伝えることも、これからのプライバシー保護には必要です。


昨日のNEWS CLIPでは「やさしい日本語」を取り上げましたが、ここにも同じ問題があります。


正確であることと、分かりやすいこと。法律文書には、その両方が必要なのだと思います。

参考:

06|BUSINESS/LABOR|カスハラ対策が企業の「努力」から「義務」へ――客だから何を言ってもいいわけではない


最後は、企業と働く人をめぐる問題です。


2025年に成立した改正労働施策総合推進法によって、企業にはカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」への対策が義務付けられることになりました。2026年は、その制度を実際の職場でどう機能させるのかが問われる年でもあります。

カスタマーハラスメントという言葉は、ここ数年ですっかり定着しました。

もちろん、企業や店に対して客が苦情を言うこと自体が問題なのではありません。

購入した商品に欠陥があった。説明とサービス内容が違った。店員の対応に問題があった。そうした場合に、消費者が改善や説明を求めることは当然です。

問題になるのは、その要求の内容や方法が社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境を害する場合です。


長時間にわたって従業員を拘束する、人格を否定するような暴言を繰り返す、土下座を要求する、SNSへの投稿をちらつかせて過剰な要求を通そうとする。

こうした行為まで「お客様のご意見」として従業員に我慢させる必要はありません。

ここで重要なのは、企業が「従業員個人に対応させない」仕組みを作ることだと思います。

接客担当者がどこまで対応し、どの段階になったら上司や専門部署へ引き継ぐのか。悪質な場合には警察や弁護士へ相談するのか。録音や記録をどのように残すのか。

こうしたルールが会社の中で決まっていなければ、現場の従業員は「自分で何とかしなければならない」と追い込まれます。


一方で、企業がカスハラ対策を強化することによって、正当な苦情まで排除されるようになってはいけません。


耳の痛い意見だからカスハラなのではありません。

企業側に落ち度があれば、当然きちんと対応する必要があります。

だからこそ、カスハラ対策で必要なのは「客と戦うこと」ではなく、正当な苦情と不当な要求を区別し、適切な対応方法をあらかじめ決めておくことなのだと思います。

「お客様は神様です」という言葉が、一時期よく使われました。

しかし、客も働く人も同じ人間です。


サービスを受ける側の権利を守ることと、サービスを提供する側の人格や安全を守ることは両立できます。

むしろ、その両方を守る仕組みを作ることが、これからの企業には求められているのだと思います。


参考:

厚生労働省「あかるい職場応援団」カスタマーハラスメント対策

今回は、災害時の氏名公表から生成AI、知的財産、プライバシー、カスタマーハラスメントまで、さまざまな「権利と利益の調整」を取り上げました。

どちらか一方だけを守れば解決する問題ばかりではありません。だからこそ、法律や制度がどこに線を引くのかを丁寧に見ていく必要があります。


8月19日のNEWS CLIPでした。

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