【法改正追跡】民法等の一部を改正する法律案~成年後見・遺言
- 那住行政書士事務所

- 4月16日
- 読了時間: 8分
更新日:4月17日

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今回の改正は、法定後見制度、遺言制度、そして任意後見制度という、いずれも身分、財産に関わる重要な制度を対象としています。しかも、その内容は単なる部分修正ではなく、制度の前提となる考え方そのものを見直す、いわば“構造改革”に近いものです。
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令和 8年 4月 3日 衆議院に法案提出・受理されました。現在、衆議院で審議中です。
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令和8年4月3日 閣議決定
令和 8年 4月 3日 衆議院に法案提出・受理
Official document
●民法等の一部を改正する法律案
●法律案要綱
●新旧対照条文
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▼変わる! 民法のかたち。「成年後見」の類型が廃止へ。
昨年より本欄で、後見そして遺言書の法改正について、審議会の情報を度々お伝えしてきましたが、いよいよその内容が具体的な形となって動き出しました。
2026年4月3日、「民法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、現在は衆議院で審議が進められています。
今回の改正は、法定後見制度、遺言制度、そして任意後見制度という、いずれも身分、財産に関わる重要な制度を対象としています。しかも、その内容は単なる部分修正ではなく、制度の前提となる考え方そのものを見直す、いわば“構造改革”に近いものです。
▼成年後見制度の再設計 ―「類型」から「個別支援」へ
今回の改正の中心にあるのは、やはり成年後見制度の見直しです。
現行制度では、「後見」「保佐」「補助」という三つの類型が用意されており、本人の判断能力の程度に応じていずれかを選択する仕組みとなっています。しかし、この分類は一見わかりやすい反面、実務上は必ずしも柔軟に機能しているとは言えませんでした。
例えば、「後見」に該当すると判断されると、包括的な代理権が付与される一方で、本人の法律行為は大きく制限されます。他方、「補助」は軽い制度ですが、利用には本人の同意が必要であり、現実には使いにくい場面も少なくありませんでした。その結果、必要以上に重い制度が選択される、あるいは制度自体の利用が見送られるといった問題が生じていました。
今回の改正案は、この構造自体を見直します。後見と保佐を実質的に廃し、「補助」を中心とした一本化された制度へと再編するのです。もっとも、これは単に名称を整理するという話ではありません。その中身は、従来の制度とは質的に異なるものです。
新しい制度では、まず「補助開始」という形でスタートし、その上で家庭裁判所が個別の事情に応じて必要な権限を付与します。具体的には、特定の行為について補助人の同意を要するようにしたり、一定の行為について取消権を認めたり、あるいは特定の法律行為に限って代理権を付与する、といった形です。
ここで重要なのは、「全部まとめて代理する」のではなく、「必要な部分だけ支援する」という発想に転換している点です。従来は、ある程度「この人はこの類型」と当てはめる構造でしたが、改正後は、本人の状態や生活状況、財産状況などを踏まえて、支援内容を細かく設計していくことになります。いわば、画一的な制度から、オーダーメイド型の制度への転換です。
さらに、この制度は固定的なものではありません。改正案では、判断能力の回復や生活状況の変化などにより、支援の必要がなくなれば補助開始の審判自体を取り消すことができるとされています。また、同意権や代理権といった個別の権限についても、必要に応じて一部だけを取り消すことが可能です。
この点は、実務上きわめて大きな意味を持ちます。例えば、遺産分割や不動産売却といった特定の場面だけ支援を受け、その手続が終われば制度から離脱するという利用の仕方が現実的になります。これまでの「一度使うと長く続く制度」から、「必要なときだけ使う制度」へと性格が変わるのです。
また、今回の改正では、支援する側の責務も明確化されています。補助人は、本人の意向を把握し、それを尊重しなければならないとされており、単に代わりに判断する存在ではなく、「意思決定を支える存在」として位置づけられています。これは、近年国際的にも重視されている「意思決定支援」の考え方を取り入れたものといえるでしょう。
加えて、実務上注目すべき新設規定として、「意思表示の受領の特別代理人」があります。これは、契約の解除通知や債権回収の場面などで、相手方が判断能力を欠く状態にあり、かつ受領者が存在しない場合に、家庭裁判所が代理人を選任できるという制度です。これまで実務上“行き止まり”になりがちだった場面に道を開くものであり、不動産取引や金融実務においても重要な役割を果たすことになるでしょう。
▼遺言制度の変革 ―デジタル時代への適応
今回の改正のもう一つの柱が、遺言制度の見直しです。
従来、遺言は紙を前提とした制度であり、自筆証書遺言や公正証書遺言といった方式が定められてきました。しかし、社会全体がデジタル化する中で、この前提自体が見直される必要が生じています。
改正案では、「保管証書遺言」という新たな方式が導入されます。これは、遺言書を作成したうえで、法務局において保管することにより、その効力を担保する仕組みです。特徴的なのは、電磁的記録、すなわちデジタルデータによる遺言も想定されている点です。
もっとも、この制度は単に「電子化して便利にする」というものではありません。むしろ、本人確認や真正性の確保といった点については、従来以上に厳格な仕組みが組み込まれています。法務局という公的機関が関与することで、偽造や改ざん、なりすましといったリスクを抑えようとしているのです。
さらに、危急時の遺言についても大きな見直しが行われています。録音・録画による遺言や、オンラインでの立会いを認める規定が整備され、災害時や感染症の流行時など、対面が困難な状況にも対応できるようになっています。これは、近年の社会状況を踏まえた現実的な対応といえるでしょう。
ただし、こうしたデジタル化は新たな課題も伴います。映像や音声が残ることで、遺言の内容や作成状況が明確になる一方で、その映像に映っていない部分、すなわち周囲の関与や意思形成の過程が争点となる可能性もあります。利便性の向上と引き換えに、紛争の質が変わる可能性がある点には注意が必要です。
▼任意後見制度の見直し ―より柔軟に、より本人本位に
第三の柱が、任意後見制度の見直しです。
任意後見は、将来に備えてあらかじめ後見人を選んでおく制度ですが、現行制度では、一度開始されると運用が固定的になりやすいという課題がありました。
今回の改正では、開始の仕組みや解除のあり方が見直され、より柔軟な運用が可能になります。例えば、複数の候補者を想定して順番に後見人を選任するような設計や、状況の変化に応じて契約を見直すことがしやすくなる方向が示されています。
これにより、任意後見制度は、より本人の意思に沿った形で活用できる制度へと変わっていくことが期待されます。
▼今回の改正が意味するもの
今回の民法改正案を通して見えてくるのは、法律の役割そのものの変化です。
従来の制度は、どちらかといえば「保護するために制限する」という発想に立っていました。しかし今回の改正は、「本人の意思を尊重しながら、必要な範囲で支える」という方向に大きく舵を切っています。
成年後見制度は「能力制限」から「意思決定支援」へ、遺言制度は「紙中心」から「デジタルと安全性の両立」へ、任意後見制度は「固定的な仕組み」から「柔軟な制度」へ。それぞれの制度が、同じ方向性のもとで見直されていることがわかります。
もっとも、制度が整えばすべてが解決するわけではありません。家庭裁判所の運用、医療や福祉との連携、金融機関や自治体の対応など、現場の実務がどこまで追いつくかが今後の大きな課題となります。とりわけ、成年後見制度の運用は多くの関係機関が関与するため、実務の整備には相応の時間を要するでしょう。
したがって、この改正の成否は、条文の内容だけでなく、その後の運用に大きく依存すると考えられます。
▼おわりに
親の介護や財産管理、自分自身の老後、そして最期の意思表示――これらは、誰にとっても無関係ではないテーマです。そして、その背後には必ず法律が存在します。
本欄でもこれまで法改正の動きをお伝えしてきましたが、今回、いよいよ具体的な法案として国会に提出されました。今後の審議の行方とともに、この制度がどのように実務に落とし込まれていくのか、引き続き注視していきたいと思います。
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