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【法改正追跡・R8.8.31更新】民法等の一部を改正する法律~成年後見・遺言


Summary

今回の改正は、法定後見制度、遺言制度、そして任意後見制度という、いずれも身分、財産に関わる重要な制度を対象としています。しかも、その内容は単なる部分修正ではなく、制度の前提となる考え方そのものを見直す、いわば“構造改革”に近いものです。


Watching

令和 8年6月24日 令和8年法律第45号・第46号として公布


Status Updates

令和8年4月3日 閣議決定

令和 8年 4月 3日 衆議院に法案提出・受理

令和 8年6月17日 「民法等の一部を改正する法律」及び関係法律整備法が成立

令和 8年6月24日 令和8年法律第45号・第46号として公布


今後

成年後見制度の見直し:公布から2年6か月以内に施行

遺言の押印任意化等:公布から1年以内に施行

保管証書遺言の創設等:公布から3年以内に施行

※いずれも具体的な施行日は政令で定められます。


Official document

◆民法等改正法・整備法の概要




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report

(2026.08.31更新)

成年後見・遺言制度を大きく見直す民法改正が成立――「後見・保佐」は廃止へ、デジタル遺言も創設


2026年4月、このBLOGでは、成年後見制度と遺言制度を大きく見直す「民法等の一部を改正する法律案」が国会に提出されたことをご紹介しました。


その後、法案は国会で審議され、2026年6月17日に成立、6月24日に公布されました。

成立したのは、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)と、その施行に伴って関係法令を整理する「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和8年法律第46号)です。


今回の改正は、成年後見制度については、現在の「後見・保佐・補助」という三つの類型を抜本的に見直し、後見と保佐を廃止して「補助」を中心とする制度へ再構成するものです。


同時に遺言制度についても、パソコン等で作成したデータを利用できる新たな「保管証書遺言」を創設するなど、大幅なデジタル化が行われます。


今回は、成立した法律の内容を改めて整理してみたいと思います。


◆今回の改正を一言でいうと


成年後見制度について最も大きな変化は、

「判断能力の程度によって一律に本人の権限を制限する制度」から、「その人に必要な部分だけ支援する制度」へ移行すること

だと考えられます。

現在の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、

「補助」「保佐」「後見」

という三つの類型に分かれています。

特に「後見」が開始されると、成年後見人には包括的な代理権や取消権が与えられるため、本人の自己決定が必要以上に制限されることがあるという問題が指摘されてきました。

そこで改正法では、基本的には本人に必要な特定の行為について代理権や取消権を付与する仕組みに一元化し、後見・保佐制度を廃止します。

これは、成年後見制度のかなり根本的な考え方の転換です。


◆1 「後見」「保佐」がなくなり、「補助」へ一元化


改正後は、精神上の理由によって「事理を弁識する能力が不十分である者」について、家庭裁判所が必要に応じて補助開始の審判を行う制度となります。

そして、

・特定の行為について補助人の同意を必要とする・特定の法律行為について補助人へ代理権を与える

といった形で、必要な支援内容を個別に設定することになります。

例えば、

預貯金の払戻し借入れ・保証不動産など重要な財産の処分相続の承認・放棄遺産分割

などについて、必要なものを対象として補助人の同意を要する旨の審判をすることができます。 

つまり、

「この人は判断能力が低下しているから、原則として広く権限を制限する」

という発想から、

「この人には、この手続について支援が必要だから、その部分についてだけ支援する」

という発想へと制度が変わっていくことになります。


◆2 判断能力を欠く常況にある場合には「特定補助」の仕組み


もっとも、本人が「事理を弁識する能力を欠く常況」にある場合まで、すべて個別の代理権・同意権だけで対応することが適切とは限りません。

そこで新制度では、こうした場合について、必要があると家庭裁判所が認めれば、**「特定補助人」**を付ける仕組みが設けられます。

特定補助の審判を受けた場合には、日常生活に関する行為を除き、法律で定められた重要な財産行為について取消しが可能となります。 

ここには、本人の保護を必要とする場面には対応しながら、それでも従来の成年後見のような「包括的な権限制限」を当然の出発点にはしない、という制度設計が表れています。


◆3 必要がなくなれば、制度を終了できる

今回の改正で、実務上非常に大きいと思われるのがこの点です。

現行の後見・保佐制度では、例えば「遺産分割を行うために成年後見制度を利用した」という場合でも、その手続が終了しただけでは後見を終了することができません。

本人の判断能力が回復しない限り、原則として制度利用が続きます。

これが、「一度成年後見を申し立てたら、簡単にはやめられない」と言われる大きな理由の一つでした。

改正後は、判断能力自体が回復していなくても、制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、制度利用を終了することが可能になります。

法務省も今回の改正について、「本人にとって必要な範囲・期間で制度利用を可能にする」ことを大きな柱として整理しています。

これは成年後見制度の利用を検討する方にとって、かなり大きな変更になるでしょう。


◆4 「本人の意思」をより重視する制度へ


もう一つ重要なのが、本人の意思の尊重です。

改正民法では、補助人が事務を行う際、

本人に情報を提供する本人から話を聴くその他の適切な方法をとる

ことによって、本人の意向を把握するよう努めなければならないことが明文化されています。

さらに、把握した本人の意向を尊重し、本人の心身の状態や生活状況にも配慮しなければなりません。

補助人を選任するときにも、家庭裁判所が考慮すべき事項として「本人の意見」がより明確に位置付けられました。

また、補助人に横領などの不正行為がなくても、「本人の利益のため特に必要があるとき」には解任できる仕組みになります。

制度全体を通じて、

「本人を保護する」だけではなく、「本人の意思を尊重しながら支援する」

という方向性が、より明確になったと言えるでしょう。


◆5 補助人の死後事務も拡大


補助人の権限についても見直しがあります。

改正後は、一定の場合に、本人の死体の火葬・埋葬に関する契約本人死亡時の権限の範囲内で行う相続財産の保存行為などを行うことができるようになります。

例えば、施設利用料の支払について代理権を持っていた補助人が、本人死亡後に未払いとなっている施設利用料を支払う、といった場面が想定されています。

単身高齢者が増える中、本人が亡くなった直後の実務を誰が担うのかという問題は非常に重要です。

もっとも、これですべての「死後事務」が補助人の権限になるわけではありません。

任意後見契約、死後事務委任契約、遺言、遺言執行などをどのように組み合わせるのかという検討は、今後も重要になってくると思います。


◆6 任意後見も、より柔軟に


法定後見だけではなく、任意後見制度も見直されます。

主なものとして、任意後見監督人を必ず選任する仕組みの見直し補助制度と任意後見契約の併存任意後見契約を発効させる順序についての合意本人が公正証書で指定した者による発効手続の申立てなどが盛り込まれています。


特に、現在は法定後見が始まると任意後見契約を十分活用できない場合がありますが、改正後は、補助制度を利用しながら任意後見契約を存続させることも可能になります。

「将来、自分が判断能力を失ったとき、誰に何を任せたいのか」という本人の意思を、より長く制度の中で生かす方向の改正と見ることができます。


◆7 すでに成年後見・保佐を利用している人はどうなる?


ここは非常に重要です。


新制度が始まったからといって、現在成年後見や保佐を利用している方が、その日に一斉に新制度へ切り替わるわけではありません。

経過措置が設けられており、現在の制度をそのまま利用し続けることも基本的には可能です。

一方、

「新制度に移行したい」「もう制度を利用する必要がないので終了したい」

という場合には、それぞれ申立てをすることができます。


法務省資料によれば、2025年12月末時点で、後見利用者は18万828人、保佐利用者は5万8,162人、補助利用者は1万8,078人とされています。


したがって、新制度への移行は相当数の既存利用者にも関係する大きな実務課題となります。


◆8 もう一つの大改正――「保管証書遺言」の創設


今回の改正では、成年後見制度と並んで、遺言制度も大きく変わります。

その中心となるのが、「保管証書遺言」という新たな遺言方式です。


現在の自筆証書遺言は、原則として遺言本文を本人が手書きしなければなりません。

新しい保管証書遺言では、遺言内容を記録したデータ等を法務局へ提出し、本人が遺言の全文を口述するなどの手続を経たうえで、法務局がその遺言を保管します。

ポイントは、


・パソコン等による作成が可能

・電子データだけでなく、プリントアウトしたものも利用可能

・オンラインによる保管申請が可能

・一定の場合にはウェブ会議を利用可能

・法務局による本人確認が行われる

・法務局保管によって紛失・改ざんを防止できる

・相続開始後の家庭裁判所による検認が不要


という点です。


「遺言は手書きで作るもの」というこれまでのイメージを、大きく変える制度になる可能性があります。


◆9 ただし、「パソコンで作れば遺言になる」という制度ではない


ここは誤解されやすいので注意が必要です。

改正によって、Wordなどで遺言を作成してパソコンに保存しておけば、それだけで有効な遺言になるわけではありません。


新しい制度はあくまで、一定の方式に従って法務局へ保管を申請し、本人確認や全文の口述等の手続を行う「保管証書遺言」です。


また、署名又はこれに代わる措置も必要とされています。

したがって、従来の自筆証書遺言、公正証書遺言に加えて、


「デジタル技術を利用して作成し、法務局で適式性と本人性を担保する新しい選択肢が増える」


と理解するのが適切でしょう。


◆10 自筆証書遺言などの「押印」は任意へ


遺言の方式について、もう一つ身近な変更があります。


自筆証書遺言、秘密証書遺言、特別の方式の遺言について、遺言者や証人等に求められていた押印が任意化されます。


遺言書を訂正・変更する場合の押印についても同様です。

もっとも、押印が不要になることと、署名その他の遺言方式まで不要になることは全く別です。

遺言には厳格な方式が定められていますので、「ハンコがなくてもよくなった」という一点だけを切り取って判断するのは危険です。


◆11 緊急時の遺言にもデジタル技術


死亡の危急に迫った人が行う「死亡危急時遺言」についても、新たな方式が追加されます。

改正後は、遺言作成の状況を録音・録画することによって、証人1人以上の立会いで遺言を作成できる方式が設けられ、ウェブ会議による立会いも可能になります。


また、従来の「船舶遭難者遺言」についても、船舶遭難だけでなく、大規模地震など「天災その他避けることのできない事変」が発生した場合へ対象が広げられます。


録音・録画を行ったうえで証人1人以上が立ち会う方式のほか、一定の場合には、録音・録画した記録を特定の者へ電子的に送信することで、証人の立会いを不要とする方式も設けられます。


災害時や緊急時に、現代の通信技術を利用して本人の最終意思を残せるようにする改正と言えるでしょう。


◆12 遺言の「証人になれない人」の範囲も拡大


遺言制度では、証人等の欠格事由も見直されます。

例えば、高齢者施設などに入所している方が、その施設を運営する法人へ遺贈するようなケースがあります。


そこで、受遺者本人だけでなく、受遺者の被用者、受遺者が法人の場合にはその被用者や役員についても、証人等になれない範囲に含める改正が行われます。

遺言者の自由な意思を確保するための制度整備です。


◆13 関連法の改正


今回の制度改正は、成年後見制度の名称や仕組みだけを変えるものではありません。


現行法には、「成年被後見人」「被保佐人」「成年後見人」「保佐人」といった概念を前提とする規定が非常に多く存在します。


そのため、今回の改正に合わせて、商法、戸籍法、民事訴訟法、会社法、信託法など、合計61法律について関連規定の整備が行われます。


例えば、「成年被後見人」を対象としていた規定を削除したり、「特定補助人を付する処分の審判を受けた者」に置き換えたりする改正です。


つまり今回の改正は、

成年後見に関する民法の一部分を直した

という規模ではなく、

日本のさまざまな法制度に組み込まれてきた「成年後見・保佐」という概念そのものを再編する

非常に大きな法改正と見るべきでしょう。


◆施行はいつから?


注意しなければならないのは、2026年6月24日に公布されたからといって、すでに新制度が始まっているわけではないということです。


施行時期は改正内容によって異なります。


成年後見制度の見直しについては、公布から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日

遺言制度のうち押印の任意化などについては、公布から1年を超えない範囲で政令で定める日

保管証書遺言の創設など、システム改修を要するものについては、公布から3年を超えない範囲で政令で定める日となっています。


したがって、今後は政令による具体的な施行日の決定に加え、法務省令、家庭裁判所や法務局における具体的な運用、申立書式や手続方法などを確認していく必要があります。


◆「保護」から「本人に必要な支援」へ


今回の改正を追いかけていて、最も大きな変化だと感じるのは、個々の条文以上に、成年後見制度の根底にある考え方です。

これまでの制度は、判断能力が低下した人について、その能力の程度を判定し、「後見」「保佐」「補助」のいずれかに当てはめることから始まりました。

しかし改正後は、

本人には何ができるのか。何について支援が必要なのか。どの権限を、誰に、どの範囲で与える必要があるのか。そして、その支援は今も必要なのか。

という、より個別具体的な判断が重要になります。


法務省が改正の背景として掲げているのも、高齢化や単独世帯の増加だけではありません。

「障害の有無にかかわらず自己決定権を尊重する」という理念の高まりが、今回の制度改正の背景に置かれています。

そう考えると今回の改正は、

「本人を守るために広く権利を制限する制度」から、「本人の意思を尊重しながら、必要なところだけ支える制度」への転換

と評価できるのではないでしょうか。


一方で、個別化された制度は、従来以上に「その人にとって何が必要なのか」を丁寧に判断することを求めます。

家庭裁判所だけではなく、行政、福祉、医療、金融機関、法律専門職、そして家族が、どのように連携していくのか。

制度が柔軟になるほど、その運用のあり方が重要になります。


◆今後も施行まで追跡します

今回の法律成立はゴールではありません。

成年後見制度については施行まで最長2年6か月、保管証書遺言については最長3年の準備期間があります。

今後、

具体的な施行日政省令家庭裁判所の申立手続後見登記制度法務局における保管証書遺言の具体的手続既存の成年後見・保佐利用者の移行実務金融機関や自治体などの対応

などが順次明らかになっていくものと思われます。

当BLOGでも、実際の制度開始まで引き続き追跡していきたいと思います。



(以下令和8年4月28日アップロード記事)

▼変わる! 民法のかたち。「成年後見」の類型が廃止へ。

昨年より本欄で、後見そして遺言書の法改正について、審議会の情報を度々お伝えしてきましたが、いよいよその内容が具体的な形となって動き出しました。


2026年4月3日、「民法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、現在は衆議院で審議が進められています。


今回の改正は、法定後見制度、遺言制度、そして任意後見制度という、いずれも身分、財産に関わる重要な制度を対象としています。しかも、その内容は単なる部分修正ではなく、制度の前提となる考え方そのものを見直す、いわば“構造改革”に近いものです。



▼成年後見制度の再設計 ―「類型」から「個別支援」へ


今回の改正の中心にあるのは、やはり成年後見制度の見直しです。


現行制度では、「後見」「保佐」「補助」という三つの類型が用意されており、本人の判断能力の程度に応じていずれかを選択する仕組みとなっています。しかし、この分類は一見わかりやすい反面、実務上は必ずしも柔軟に機能しているとは言えませんでした。


例えば、「後見」に該当すると判断されると、包括的な代理権が付与される一方で、本人の法律行為は大きく制限されます。他方、「補助」は軽い制度ですが、利用には本人の同意が必要であり、現実には使いにくい場面も少なくありませんでした。その結果、必要以上に重い制度が選択される、あるいは制度自体の利用が見送られるといった問題が生じていました。


今回の改正案は、この構造自体を見直します。後見と保佐を実質的に廃し、「補助」を中心とした一本化された制度へと再編するのです。もっとも、これは単に名称を整理するという話ではありません。その中身は、従来の制度とは質的に異なるものです。


新しい制度では、まず「補助開始」という形でスタートし、その上で家庭裁判所が個別の事情に応じて必要な権限を付与します。具体的には、特定の行為について補助人の同意を要するようにしたり、一定の行為について取消権を認めたり、あるいは特定の法律行為に限って代理権を付与する、といった形です。


ここで重要なのは、「全部まとめて代理する」のではなく、「必要な部分だけ支援する」という発想に転換している点です。従来は、ある程度「この人はこの類型」と当てはめる構造でしたが、改正後は、本人の状態や生活状況、財産状況などを踏まえて、支援内容を細かく設計していくことになります。いわば、画一的な制度から、オーダーメイド型の制度への転換です。


さらに、この制度は固定的なものではありません。改正案では、判断能力の回復や生活状況の変化などにより、支援の必要がなくなれば補助開始の審判自体を取り消すことができるとされています。また、同意権や代理権といった個別の権限についても、必要に応じて一部だけを取り消すことが可能です。


この点は、実務上きわめて大きな意味を持ちます。例えば、遺産分割や不動産売却といった特定の場面だけ支援を受け、その手続が終われば制度から離脱するという利用の仕方が現実的になります。これまでの「一度使うと長く続く制度」から、「必要なときだけ使う制度」へと性格が変わるのです。


また、今回の改正では、支援する側の責務も明確化されています。補助人は、本人の意向を把握し、それを尊重しなければならないとされており、単に代わりに判断する存在ではなく、「意思決定を支える存在」として位置づけられています。これは、近年国際的にも重視されている「意思決定支援」の考え方を取り入れたものといえるでしょう。


加えて、実務上注目すべき新設規定として、「意思表示の受領の特別代理人」があります。これは、契約の解除通知債権回収の場面などで、相手方が判断能力を欠く状態にあり、かつ受領者が存在しない場合に、家庭裁判所が代理人を選任できるという制度です。これまで実務上“行き止まり”になりがちだった場面に道を開くものであり、不動産取引や金融実務においても重要な役割を果たすことになるでしょう。


▼遺言制度の変革 ―デジタル時代への適応


今回の改正のもう一つの柱が、遺言制度の見直しです。


従来、遺言は紙を前提とした制度であり、自筆証書遺言や公正証書遺言といった方式が定められてきました。しかし、社会全体がデジタル化する中で、この前提自体が見直される必要が生じています。


改正案では、「保管証書遺言」という新たな方式が導入されます。これは、遺言書を作成したうえで、法務局において保管することにより、その効力を担保する仕組みです。特徴的なのは、電磁的記録、すなわちデジタルデータによる遺言も想定されている点です。


もっとも、この制度は単に「電子化して便利にする」というものではありません。むしろ、本人確認や真正性の確保といった点については、従来以上に厳格な仕組みが組み込まれています。法務局という公的機関が関与することで、偽造や改ざん、なりすましといったリスクを抑えようとしているのです。


さらに、危急時の遺言についても大きな見直しが行われています。録音・録画による遺言や、オンラインでの立会いを認める規定が整備され、災害時や感染症の流行時など、対面が困難な状況にも対応できるようになっています。これは、近年の社会状況を踏まえた現実的な対応といえるでしょう。


ただし、こうしたデジタル化は新たな課題も伴います。映像や音声が残ることで、遺言の内容や作成状況が明確になる一方で、その映像に映っていない部分、すなわち周囲の関与や意思形成の過程が争点となる可能性もあります。利便性の向上と引き換えに、紛争の質が変わる可能性がある点には注意が必要です。


▼任意後見制度の見直し ―より柔軟に、より本人本位に


第三の柱が、任意後見制度の見直しです。


任意後見は、将来に備えてあらかじめ後見人を選んでおく制度ですが、現行制度では、一度開始されると運用が固定的になりやすいという課題がありました。


今回の改正では、開始の仕組みや解除のあり方が見直され、より柔軟な運用が可能になります。例えば、複数の候補者を想定して順番に後見人を選任するような設計や、状況の変化に応じて契約を見直すことがしやすくなる方向が示されています。


これにより、任意後見制度は、より本人の意思に沿った形で活用できる制度へと変わっていくことが期待されます。


▼今回の改正が意味するもの


今回の民法改正案を通して見えてくるのは、法律の役割そのものの変化です。


従来の制度は、どちらかといえば「保護するために制限する」という発想に立っていました。しかし今回の改正は、「本人の意思を尊重しながら、必要な範囲で支える」という方向に大きく舵を切っています。



成年後見制度は「能力制限」から「意思決定支援」へ遺言制度は「紙中心」から「デジタルと安全性の両立」へ任意後見制度は「固定的な仕組み」から「柔軟な制度」へ。それぞれの制度が、同じ方向性のもとで見直されていることがわかります。


もっとも、制度が整えばすべてが解決するわけではありません。家庭裁判所の運用、医療や福祉との連携、金融機関や自治体の対応など、現場の実務がどこまで追いつくかが今後の大きな課題となります。とりわけ、成年後見制度の運用は多くの関係機関が関与するため、実務の整備には相応の時間を要するでしょう。


したがって、この改正の成否は、条文の内容だけでなく、その後の運用に大きく依存すると考えられます。


▼おわりに


親の介護や財産管理、自分自身の老後、そして最期の意思表示――これらは、誰にとっても無関係ではないテーマです。そして、その背後には必ず法律が存在します。


本欄でもこれまで法改正の動きをお伝えしてきましたが、今回、いよいよ具体的な法案として国会に提出されました。今後の審議の行方とともに、この制度がどのように実務に落とし込まれていくのか、引き続き注視していきたいと思います。



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