単なる個人のパワハラ問題ではない。「横浜市政の劣化」という話である。
- 那住行政書士事務所

- 3 時間前
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「切腹だぞ。」「人間のクズ。」「ポンコツ。」「頭が悪い。」「お前、裏切ったらこれだからな。」
……もし、これが居酒屋で酒に酔った人間の与太話なら、「品のない人だね」で終わる話かも知れない。いや、与太話でも昨今のご時世だったらダメか。
この発言をしたのが横浜市長だというから驚きだ。日本最大の基礎自治体、その頂点に立つ人間の発言だ。
今年はじめから横浜市では、山中竹春市長による「パワハラ問題」に揺れていました。この問題は、国会での昨今の議論とは違い、週刊誌片手に市長に問題を糾していたわけではなく、現職の市職員、市幹部の告発を端緒とし追及が続いていました。この問題を受けて、横浜市が設置した第三者委員会は、令和8年7月30日、100ページに及ぶ報告書を公表。第三者委員会は、職員アンケート、数十人に及ぶヒアリング、録音、メールなど客観的証拠を積み重ねた上で、法律上のパワーハラスメントに該当するかを一つずつ判断し、その結果、次のような行為について、パワーハラスメントに該当すると認定しました。
・市長室で怒鳴る行為
・書類を投げつける行為
・「切腹だぞ」との発言
・銃で撃つ仕草による威圧
・「ポンコツ」「人間のクズ」など、職員らに対する人格否定・侮辱的な発言
・深夜・休日を問わない常態的な業務連絡
・「市長室出入り禁止」という事実上の排除
・人事権を背景とした恐怖による職員支配
その結論は実に重たいものです。問題は「口が悪いこと」ではない。勘違いしてはいけないのは報道では、「切腹」「銃撃ポーズ」といった刺激的な言葉ばかりが注目されています。しかし、私はそこは枝葉に過ぎないと思います。
本当に恐ろしいのは、その後ろにある組織の姿ではないでしょうか。第三者委員会は、市役所の中で「市長室出入り禁止」という言葉が半ば共通語になっていたことを認定してます。もちろん「出入り禁止」は市からの正式な処分ではありません。しかし、市長に嫌われれば説明の機会すら失う。重要案件でも呼ばれない。そんな空気が組織全体を覆ってるなかで、誰が、「市長、その判断は間違っています。」と言えるでしょうか。言えるわけがありません。横浜市役所の内部に、少なくとも「市長の意向に逆らえば不利益を受けるのではないか」という恐怖が広がり、組織運営を歪めていたということです。
私は行政書士という仕事柄、役所へ行く機会が他の人よりかは多いと思います。県庁にも、市役所にも、国の行政機関にも足を運びます。そこで日々感じるのは、多くの職員が実に真面目に働いているということです。
申請書を一枚提出するに当たり、判断に迷うことがあります。そのようなときに相談すると、担当職員は法令を読み、運用や前例を調べ、適正な処理をしようと真摯に対応してくれます。
そうした職員一人ひとりが真摯な姿勢で行政に取り組んでいたとしても、トップが恐怖による支配を始めた瞬間から、組織の健全性は内側から崩れ始めます。
役所という組織は、民間企業以上に「上司に逆らいにくい」組織です。まして相手は人事権を持つ市長。評価も異動も昇任も、市長の意向が少なからず影響する。そんな相手に異論を唱えるには、相当な勇気が必要です。
だからこそ、トップには一般職員以上の自制が求められる。
今回の報告書には、久保田淳横浜市総務局人事部長(当時)の、今年1月の告発文も添付されていました。印象的だったのは、そこに「市長を辞めさせたい」という言葉がなかったことです。むしろ、「市長としてふさわしい、人権感覚を持ち、法令を遵守した姿に改めてもらいたい。」そして、「市長の交代を求めるものではありません。」とまで書かれている。
これは非常に重い言葉です。
人格攻撃ではない、政治闘争でもない、組織を守りたいという、長年横浜市政を支えてきた職員の悲鳴として聞こえます。しかも告発したのは、人事部長。ハラスメント対策の責任者です。通常の相談制度では、市長自身を対象とした案件を適切に処理できないという制度上の限界まで記している。ここまで追い詰められて、ようやく実名で公益通報に踏み切った。
その重みを決して軽く見るべきではありません。
「怒られるから」「飛ばされるから」「嫌われるから」と口を閉ざす組織になれば、法治行政は成り立ちません。最後に損をするのは、市長でも職員でもない。
横浜市民、一人ひとりです。
これから百条委員会が設置されるのか。山中市長の進退をめぐり、議会や世論が喧々諤々となるのか。それは分かりません。
しかしこの問題を「山中市長は辞めるべき」という単純な話で終わらすのは良くないと思います。もちろん、山中市長本人の責任は極めて重い。しかし、それだけで終わらせてしまえば、数年後にはまた同じことが起きる可能性があります。
地方自治体は二元代表制で動いています。しかしその中においても、首長の権限は極めて強い。だからこそ議会には、執行機関から独立した立場で首長権限を監視し、必要な調査と是正を求める責任があります。同時に、市役所内部にも、特別職を例外としない実効的な通報・調査制度が必要です。
そして自治体だけでなく、あらゆる組織において(もちろん、我らの行政書士会も)、同じようなことが無いか、横浜市を他山の石として、しっかり足元を見直すべきだと思います。
権力は、放っておけば肥大化します。だから法がある。ルールがある。議会がある。公益通報制度がある。
権力者が善良であることを祈るだけでは、組織は守れません。人は権力を持てば判断を誤ることがある。その冷厳な前提に立ち、誤りを止め、異論を述べ、被害を訴えられる仕組みをつくらなければならないのです。
今回の報告書を、「切腹発言」や「銃撃ポーズ」という刺激的なニュースだけで消費してはなりません。
問われているのは、山中市長一人の言葉遣いではない。
横浜市という巨大な行政組織が、権力者に対して「それは間違っている」と言える組織であったのかということです。
横浜市は、この報告書を読んで終わりにするのか。
それとも、市政の統治構造を本気で立て直すのか。
市民は、そこを見ています。
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