【blog】どこまで行っても、行政書士の仕事において大事なのは“行政手続法”である

令和8年9月11日、神奈川県行政書士会で開催された研修会「行政手続法制の現状と課題~自治体の許認可等の現場から~」を受講してきました。講師は、関東学院大学法学部教授の出石稔先生です。
今回の研修会は、神奈川県行政書士会と関東学院大学法学部との「包括連携協定」に基づいて開催されたものです。この協定では、単に大学と行政書士会が名前を並べるだけではなく、双方にとって実質的な意味のある連携を行っていくことが意識されているとのことで、今回の研修会もその具体的な取組の一つとして開催されました。
テーマは「行政手続法制」。行政書士にとっては、まさにど真ん中のテーマです。
行政書士試験でも当然勉強する法律ですし、許認可業務を行っていれば、審査基準や標準処理期間、行政指導、不利益処分、理由提示といった行政手続法の考え方には日常的に接することになります。その意味では、決して目新しい法律ではありません。
ところが今回、改めて体系的な講義を聞いてみると、行政書士として実務経験を積んだ今だからこそ分かることが随分ありました。個々の許認可について知識を増やしていっても、結局その根底にあるのは行政法であり、行政手続法です。むしろ実務を経験するほど、この法律の重要性が見えてくるのではないか。そんなことを考えながら聞いた研修会でした。
ー行政法は、行政に「タガをはめる」法律
講義は、「そもそも行政とは何か」というところから始まりました。
出石先生は、行政の働きを「奪う行政」「しつける行政」「与える行政」「支払う行政」という四つに分けて説明されました。「奪う行政」は租税、「しつける行政」は規制、「与える行政」は補助金などの給付行政、「支払う行政」は物品購入や委託、工事請負などの私経済行政です。
「奪う」「しつける」という言葉だけを見るとなかなか刺激的ですが、行政というものの性格を考えるには分かりやすい整理です。
行政というと、市役所の窓口で住民票を取ったり、福祉サービスを受けたりする姿を思い浮かべることが多いかもしれません。しかし、行政は単なるサービス提供者ではありません。一般の私人には認められていない「公権力」を持っています。税を徴収し、一定の行為を規制し、許認可について判断し、場合によっては許可を取り消したり、営業停止を命じたりすることもできます。
そこで重要になるのが行政法です。
講義の中で出石先生は、行政法は「行政にタガをはめる」ものだと説明されていました。行政に強い権限を与える一方で、その権限を勝手に使わせない。行政は法というルールに従って権限を行使しなければならないという考え方です。
この説明は、行政書士の仕事を考えるうえでも非常に重要だと思います。
私たちは日常的に「この許可を取りたい」「この届出をしたい」という依頼を受けます。そのとき、どうしても個々の業法や申請要領に目が向きます。しかし、その向こう側には行政庁による判断があり、その判断もまた法によって規律されています。
申請者だけが法律を守らなければならないのではありません。申請を受けて審査する行政もまた、法律に従わなければならない。この当たり前のことが、行政法を考える出発点なのだと思います。
ー許認可は、行政の自由な判断で決められるものではない
講義はそこから、行政行為、そして行政手続法の具体的な話へ進んでいきました。
行政庁が法律や条例によって与えられた権限に基づき、一方的に国民の権利義務その他の法的地位を具体的に決定する。これが行政行為、行政処分の基本的な姿です。許可や認可もその一つです。
行政書士が日常的に扱っている許認可申請も、行政庁に書類を提出すれば、それで終わるわけではありません。提出された申請について行政庁が審査を行い、最終的に許可・不許可という判断をする。その一連の過程があります。そして、その過程を行政庁の自由にさせないために行政手続法があります。
申請に対する処分については、審査基準を定めて公にしておくこと、標準処理期間を定めるよう努めること、申請が到達したら遅滞なく審査を開始すること、拒否するのであればその理由を示すことなどが定められています。今回の講義では、これらを「迅速・透明な処理の確保」のための仕組みとして整理して説明されていました。
なかでも興味深かったのが、審査基準についての話です。
許認可の仕事をしていると、役所の担当者から「この場合、うちではこういう扱いです」と説明されることがあります。それ自体は珍しいことではありませんし、行政実務の蓄積として合理的な運用が行われている場合も当然あります。
しかし、許可・不許可を左右する判断であるならば、「役所ではそういう扱いだから」というだけで終わらせるわけにはいきません。何を基準としてその判断をしているのか、その基準はどのように定められているのか、そして公にされているのかという問題が出てきます。
研修では、自治体の現場において、県などが作成した資料を読み替えて運用していたり、担当部署では運用を理解しているものの審査基準として十分整理されていなかったりする事例も紹介されました。制度として審査基準を置くことと、現場で行政手続法の趣旨に沿った形で運用されることとは、必ずしも同じではないという話です。
行政書士としてその運用の法的な位置付けを考えることができるかどうか。ここには、単に申請書の書き方を知っていることとは違う専門性があるように思います。
ー制度があることと、現場に根付いていることは同じではない
今回の研修が単なる行政手続法の復習ではなかったのは、出石先生が自治体の実務経験を踏まえて、制度が現場でどのように運用されているのかというところまで踏み込んで話されたからです。
先生は横須賀市職員として行政実務に携わり、行政手続条例や情報公開条例の制定にも関わった後、研究者となってからも数多くの自治体の審議会や審査会などに関与されています。講義の冒頭から、「自治体において行政手続法制が果たしてうまく回っているのか」という問題意識が示され、実際には十分に回っていない部分があるとの指摘がありました。
行政手続法や行政手続条例があり、審査基準や処分基準が整備されていれば、それで行政手続が適正になるわけではありません。
行政手続法という法律が存在することと、その考え方が行政組織の隅々にまで根付いていることは別なのだ、ということがよく分かります。
ー行政書士として、もう一度「行政手続法」に戻る
今回の研修を聞きながら、行政書士という仕事について改めて考えました。
行政書士の仕事は非常に幅広くなっています。私自身も、許認可だけでなく、著作権、契約、補助金、相続など、さまざまな分野の仕事をしています。それでも「行政書士」という資格の原点を考えれば、やはり行政と市民・事業者との間に立ち、行政手続を扱う専門家であることに変わりはありません。
許認可についても、申請書を作成して提出するところだけを見れば、個別の業法と申請要領を熟知することが最も重要に見えます。しかし単に申請要領を読んでいるだけでは足りないのだと思います。行政が何を根拠としてその判断をしているのか、どのような審査基準によって申請を見ているのか、担当者から求められていることに法的な義務があるのか、不許可になった場合には十分な理由が示されているのか。
そうしたことを一つ一つ法的に考えていくと、個別の許認可制度の背後に行政手続法があることに気づきます。
どこまで行っても、行政書士の仕事において大事なのは“行政手続法”である。
個々の許認可についての知識を増やしていくことはもちろん必要です。しかし、それと同時に、その手続を支えている行政法、行政手続法について学び続けることも、行政書士として欠かすことのできない仕事の一部なのだと思います。
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