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【行政情報】「骨太の方針2026」が示す日本の針路--ミクロな視点からの考察:知的財産政策と、初めて明記された行政書士制度


令和8年7月21日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2026」、いわゆる「骨太の方針2026」を閣議決定しました。

「骨太の方針」は、政府の経済財政運営と翌年度の予算編成に関する基本的な方向性を示す重要な文書です。個別の法律や予算そのものではありませんが、ここに何が記載されるかは、今後の法制度、予算措置、各省庁の施策、地方公共団体の取組に大きな影響を与えます。

今回の骨太の方針では、「責任ある積極財政」を掲げ、これまでの延長線上ではない経済財政運営への転換が打ち出されました。


そして、行政書士にとって特に注目すべきことがあります。


骨太の方針に、行政書士制度が制度発足以来初めて明記されたのです。


これは、単に「行政書士」という職業名が政府文書に掲載されたというだけの話ではありません。行政書士制度が、「持続可能な地方行財政基盤の強化」や「自治体AX/DX」を支える制度として位置付けられたことに、大きな意味があります。

本稿では、まず骨太の方針2026が示す経済財政政策全体の方向性を確認します。その上で、知的財産・コンテンツ分野の方向性、行政書士制度への言及、その意義、そして私たち行政書士が今後取り組むべき課題について考えてみたいと思います。


なお、本記事に書いてあることは、すべて那住の私見です。現在の会の役職等の立場とは一切関係ありません。


<INDEX>

1 骨太の方針2026の全体像

(1)「未来への投資不足」からの転換

(2)2040年度に国内投資250兆円を目指す

(3)DXからAXへ

(4)地域政策は「人口減少対策」から「強い地域経済」へ

(5)中小企業支援と補助金政策の方向性


2 知財・コンテンツ分野に対する政策への影響

(1)知的財産・コンテンツ分野の方向性

(2)知的財産・無形資産を経営に活かす

(3)AIと知的財産

(4)コンテンツ産業が17の戦略分野に

(5)国際標準化とルール形成

(6)知的財産分野で行政書士が果たせる役割


3 骨太の方針に初めて明記された行政書士制度

(1)「士業制度」ではなく「地方行財政基盤」の中に置かれた意味

(2)総務省通知が示した具体的な対応

  • 電子申請システムに代理人名を入力する欄を

  • 行政書士の活用促進

  • 無資格者の関与防止

  • 都道府県から市区町村への周知

(3)特定行政書士の業務範囲拡大

(4)行政書士制度への明記は「権限の拡大」だけを意味しない

  • 課題① 電子申請の実態把握

  • 課題② 自治体への具体的な提案

  • 課題③ デジタル対応能力の向上

  • 課題④ 無資格者関与への適正な対応

  • 課題⑤ 特定行政書士制度の実質化

  • 課題⑥ 業務品質と職業倫理

(5)明記されたことを「成果」で終わらせないために


4 おわりに――期待にどう応えていくのか


【内閣府 関連資料】


【日本行政書士会連合会】


初出:令和8年7月27日

更新:



1 骨太の方針2026の全体像


(1)「未来への投資不足」からの転換


骨太の方針2026は、現在の日本が直面している課題として、人口減少、安全保障環境の変化、エネルギー制約、自然災害リスクの増大、AIをはじめとする技術革新、国家間の産業・技術競争の激化などを挙げています。

また、日本の潜在成長率が主要先進国と比べて低迷している背景には、長年にわたる「未来への投資不足」があると分析しています。


投資不足によって弱体化しているのは、単なる生産設備だけではありません。科学技術力、産業競争力、人材力など、日本の成長を支える基盤そのものが弱くなっているという認識が示されています。

そこで政府は、「責任ある積極財政」の考え方の下、政府が一歩前に出て、官民が連携して戦略分野への投資を進める方針を打ち出しました。

具体的には、さまざまなリスクを最小化するための「危機管理投資」と、先端技術や新しい産業を育てる「成長投資」を、複数年度にわたって大胆かつ戦略的に進めるとしています。

従来のように、単年度予算や補正予算を中心に、その都度必要な施策を積み上げるのではありません。民間事業者が中長期的な見通しを持って投資できるよう、政府の支援にも予見可能性を持たせようとしています。

令和9年度、すなわち2027年度を「責任ある積極財政元年」と位置付け、2027年度から2040年度までを計画期間とする「中長期経済財政計画」を策定したことも、今回の特徴です。


つまり、骨太の方針2026は、単に翌年度の予算編成方針を示した文書ではありません。2040年度までを見据え、日本の産業構造、社会基盤、行政サービスの在り方を転換しようとする長期的な国家戦略としての性格を有しています。


(2) 2040年度に国内投資250兆円を目指す


政府は、2040年度に250兆円の国内投資を実現することを、新たな官民目標として掲げました。

その中核となるのが、17の戦略分野です。


具体的には、AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、情報通信、量子、防衛産業、航空・宇宙、海洋、造船、マテリアル、合成生物学・バイオ、創薬・先端医療、資源・エネルギー安全保障・GX、フュージョンエネルギー、防災・国土強靱化、港湾ロジスティクス、フードテック、コンテンツが挙げられています。


これら17分野における62の主要な製品・技術等について、政府は「官民投資ロードマップ」を策定しています。2040年度までに想定される官民投資の累計額は、370兆円を超える規模とされています。


重要なのは、単に研究開発費や補助金を増やすだけではないという点です。

政府調達による初期需要の創出、規制改革、研究開発から社会実装までの一貫した支援、人材・データ・計算資源の整備、税制・金融による支援、国際標準化、海外市場の獲得などを組み合わせて進めるとしています。


技術開発に成功しても、事業化や市場獲得で海外企業に後れを取るという、これまで日本が繰り返してきた問題を克服しようとするものです。


(3)DXからAXへ


今回の骨太の方針では、「DX」に加え、「AX」という言葉が重要な政策概念として登場しています。


AXとは、AI Transformationの略です。


これまでのDXは、業務をデジタル化し、情報処理を効率化することに重点が置かれる傾向がありました。これに対してAXは、AIを前提として、業務、組織、製品、サービス、産業構造そのものを変革することを意味します。

特に政府は、日本が持つ豊富な現場データや、ものづくりの基盤を活用した「フィジカルAI」を重視しています。

製造、物流、建設、医療、介護、防災、農林水産業などの現実の現場にAIやロボティクスを導入し、人口減少や労働力不足の中でも高い付加価値を生み出せる経済構造へ転換しようという考え方です。

この方向性は、行政にも及びます。

国や地方公共団体においても、行政手続を単にオンラインで受け付けるだけではなく、申請、審査、補正、情報連携、許認可後の管理まで含めて、行政サービス全体を再設計することが求められます。


そして、この自治体AX/DXの文脈の中に、今回、行政書士制度が位置付けられました。


(4) 地域政策は「人口減少対策」から「強い地域経済」へ


地方政策については、「地域未来戦略」が新たな柱となっています。


これまでの地方創生政策では、移住促進、関係人口の拡大、子育て支援など、人口減少への対応が中心的な課題とされてきました。

もちろん、これらも引き続き重要です。しかし、骨太の方針2026では、それに加えて、地域自らが投資を呼び込み、産業を育成し、「稼ぐ力」を高めることに重点が置かれています。

地域産業クラスターの形成、インフラ整備と産業政策の連携、地域企業の設備投資、事業承継、M&A、輸出、人材育成、地域交通DX、空き家・所有者不明土地対策、PPP/PFIなどが、一体的な地域政策として示されています。


地方公共団体の役割も大きくなります。

一方で、多くの地方公共団体は、人材不足、専門人材の偏在、システム標準化への対応、財政制約、行政需要の増大という問題を抱えています。

そのため、自治体間の広域連携、行政サービスの標準化、民間専門家との連携、行政手続の効率化が不可欠になります。

行政書士制度への言及も、こうした地方行政の構造的な課題と切り離して考えることはできません。


(5)中小企業支援と補助金政策の方向性


骨太の方針2026では、賃上げを「分配」の問題だけではなく、成長戦略の起点として位置付けています。

人材を確保し、消費を拡大し、企業の収益を高め、さらなる投資につなげるためには、中小企業を含めた持続的な賃上げが必要だという考え方です。


このため、売上高100億円を目指す企業や中堅企業だけでなく、売上高1億円から10億円程度の企業を含め、成長意欲を有する中小企業への幅広い支援が予定されています。

設備投資、DX・AX、事業承継、M&A、海外展開、人材育成などを総合的に支援するとともに、国の補助金だけでなく、交付金を活用した都道府県・市町村による生産性向上支援も進めるとされています。

一方、補助金や基金については、その費用対効果や社会的価値を検証し、必要な見直しを行う方針も示されています。

したがって、補助金が全体として一律に増えるわけではありません。

今後は、成長分野への投資、DX・AX、賃上げ、地域経済への波及、事業の持続可能性など、国の政策目的と明確に結び付いた事業へ、支援が重点化されていくと考えられます。


補助金申請の支援に携わる行政書士にも、単に申請書の様式を整えるだけでなく、事業者の強み、投資効果、賃上げ、KPI、政策目的との整合性を的確に説明する力が求められます。


2 知財・コンテンツ分野に対する政策への影響


(1)知的財産・コンテンツ分野の方向性


骨太の方針2026では、科学技術・イノベーションを国家戦略の中核に据え、「新技術立国」の実現を目指すとしています。そのためには、研究開発を支援するだけでは足りません。

研究成果や技術、データ、ブランド、コンテンツなどを知的財産として適切に保護し、事業化し、社会に実装し、国内外の市場で収益を得るところまで支援する必要があります。


骨太の方針では、「知的財産推進計画2026」に基づき、知的財産・無形資産の活用、保護、標準化に関する国家戦略を推進するとしています。

知的財産政策が、権利を取得して侵害から守るだけの「保護政策」ではなく、研究開発、事業成長、海外展開、経済安全保障を支える「成長政策」として位置付けられていることが分かります。


(2)知的財産・無形資産を経営に活かす


企業価値の源泉は、工場や土地、設備などの有形資産だけではありません。


技術、ノウハウ、データ、ソフトウェア、ブランド、デザイン、顧客基盤、コンテンツ、人材など、さまざまな無形資産が企業の競争力を左右します。

特に中小企業の場合、高い技術や独自のノウハウを持っていても、それが社内で整理されておらず、契約、知的財産権、営業秘密管理などによって適切に保護されていないことがあります。

その結果、共同開発、業務委託、外部企業との連携、M&A、事業承継などの場面で、技術やノウハウの帰属をめぐる問題が生じます。

今後、官民投資によって研究開発や企業間連携が増えるほど、知的財産の帰属、利用範囲、秘密保持、成果の公表、二次利用、海外展開などをあらかじめ契約で整理する重要性も高まります。


(3)AIと知的財産


AXを推進する上で避けて通れないのが、AIと知的財産の問題です。


AIの開発・学習段階では、著作物やデータをどこまで利用できるのか。生成・利用段階では、AIによって作成されたものが著作物として保護されるのか。第三者の著作権、商標権、肖像権、パブリシティ権などを侵害していないか。AIを利用して制作した成果物の権利を、発注者と制作者のどちらに帰属させるのか。

こうした問題は、今後さらに増加します。

法令上許される利用であっても、契約上の制限や、企業の社会的責任、クリエイターとの信頼関係への配慮が必要な場合もあります。

AI活用を推進することと、著作者、実演家、クリエイターその他の権利者に適正な対価を還元することを、対立するものとして考えるべきではありません。


持続可能なコンテンツ産業を育てるためには、技術革新によって生まれた新しい価値が、創作を担う人にも適切に還元される仕組みが必要です。


(4)コンテンツ産業が17の戦略分野に


今回、ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写を含む「コンテンツ」が、17の戦略分野の一つとして明確に位置付けられました。


これは大きな意味を持ちます。


コンテンツ政策は、これまで文化振興やクールジャパン政策の一環として語られることが多くありました。これに対して骨太の方針2026では、コンテンツ産業が、海外市場を獲得し、日本の成長を支える戦略産業として位置付けられています。

また、メディア芸術ナショナルセンター(仮称)の機能を有する拠点の整備や、出版物、レコード、映画などのデジタルアーカイブ化も進めるとされています。


ここで課題となるのが、権利処理です。


過去の作品を保存し、デジタル化し、公開し、教育や研究に活用するためには、著作権者の確認、利用許諾、保護期間、権利者不明著作物、実演家やレコード製作者の権利などを整理しなければなりません。


文化資産を保存するだけでなく、それを適法かつ持続可能な形で社会に還元するためには、知的財産に関する専門的な支援体制が不可欠です。


(5)国際標準化とルール形成


優れた技術を開発しても、その技術が国内だけで利用され、国際的なルールや標準を海外企業に握られてしまえば、世界市場で主導権を取ることはできません。

骨太の方針が知的財産と併せて「標準化」を掲げているのは、このためです。


技術を特許で独占するだけでなく、どの部分を権利化し、どの部分を標準として開放し、どのようなライセンス条件で普及させるのか。知的財産戦略と標準化戦略を一体として考える必要があります。

知的財産は、法律だけの問題ではありません。研究開発、契約、事業戦略、海外展開、資金調達、標準化などを横断して考えるべき経営上の問題なのです。


(6)知的財産分野でも行政書士が果たせる役割


骨太の方針が掲げる知的財産・無形資産の活用、コンテンツ産業の振興、デジタルアーカイブ、AIの社会実装においても、行政書士が果たせる役割があります。

行政書士は、著作権登録申請、著作権に関する契約書の作成、ライセンス契約、制作委託契約、秘密保持契約、共同開発契約、利用規約などの作成・相談に関与することができます。

もっとも、知的財産分野は、行政書士であれば誰でも当然に対応できるというものではありません。


著作権法、民法、契約実務、コンテンツ産業の商慣行、AIに関する最新の議論などについて、専門的な知識が必要です。また、弁護士、弁理士、税理士その他の専門家との適切な連携も欠かせません。


行政書士が知的財産分野で役割を果たすためには、「契約書を作る」という形式的な業務にとどまらず、依頼者が保有する知的財産や無形資産を把握し、それをどのように守り、活用し、事業につなげるのかという視点が必要です。

中小企業やクリエイターにとって身近な相談相手として、権利関係を整理し、契約に反映し、必要に応じて他の専門家へつなぐ。そのような役割が期待されます。そして行政書士はその期待に答えるべく、研鑽を積んでいかなくてはなりません。



3 骨太の方針に初めて明記された行政書士制度


(1)「士業制度」ではなく「地方行財政基盤」の中に置かれた意味


骨太の方針2026の第3章「責任ある積極財政に基づく『中長期経済財政計画』」には、「持続可能な地方行財政基盤の強化」という項目があります。


その中で、次のように記載されました。


「『デジタル社会の実現に向けた重点計画』等に沿って、自治体AX/DX、地方公共団体のサイバーセキュリティ強化、標準準拠システムへの移行・運用最適化を進める。改正行政書士法を踏まえ、適切な対応を図る。


脚注では、令和7年法律第65号による行政書士法改正について、


「デジタル化を踏まえた行政書士の使命・職責規定の創設、特定行政書士の業務範囲の拡大、業務制限規定の明確化等が行われた」


と説明されています。


日本行政書士政治連盟の会長談話によれば、行政書士制度が国の予算編成方針に位置付けられたのは、制度発足以来初めてとのことです。


行政書士にとって、歴史的な記載であることは間違いありません。

しかし、本当に重要なのは、行政書士制度がどのような文脈で記載されたかです。


行政書士制度への言及は、司法制度、資格制度、規制改革などの項目に置かれたのではありません。

「持続可能な地方行財政基盤の強化」の項目において、自治体AX/DX、サイバーセキュリティ、標準準拠システムへの移行・運用最適化と並んで記載されています。


このことは、行政書士が、単に書類を作成する資格者としてではなく、「住民・事業者と行政との間をつなぎ、デジタル化が進む行政手続を円滑にするための社会的基盤」として位置付けられたことを意味します。


行政手続がオンライン化されれば、国民にとって手続が簡単になるとは限りません。


オンライン申請には、パソコンやスマートフォンの操作、電子証明書、アカウントの取得、添付データの作成、ファイル形式の変換、本人確認、電子署名など、紙による申請とは異なる知識が必要になります。

高齢者、障害者、外国人、デジタル機器の利用に不慣れな人、小規模事業者などにとっては、オンライン化が新たな障壁になることもあります。


また、申請画面への入力ができたとしても、そもそも許可要件を満たしているのか、どの資料を提出すべきか、事実関係をどのように整理して説明するのかという、本来の専門的な判断が不要になるわけではありません。

行政書士には、デジタル化によって便利になった仕組みを、誰もが適切に利用できるよう支援し、行政と国民との間のデジタル格差を埋める役割が期待されています。


(2) 総務省通知が示した具体的な対応


骨太の方針への記載に併せて、令和8年7月21日、総務省自治行政局から、各府省、都道府県及び日本行政書士会連合会に対し、「『経済財政運営と改革の基本方針2026』を踏まえた改正行政書士法への適切な対応について」と題する通知が発出されました。


骨太の方針本文では、「改正行政書士法を踏まえ、適切な対応を図る」とだけ記載されています。


「適切な対応」の具体的な内容は、この総務省通知によって示されています。


◆電子申請システムに代理人名を入力する欄を


各府省及び都道府県に対する通知では、電子申請システムを構築する際に、代理人名を入力する欄を設けるなど、デジタル手続においても行政書士による代理申請が円滑に行われるための取組を行うよう求めています。


これは非常に具体的で重要な指摘です。


現在の電子申請システムの中には、本人申請を前提として設計され、専門家が代理申請を行うことが十分に想定されていないものがあります。

代理人名を入力する欄がない。代理人の連絡先を登録できない。委任状を添付する項目がない。補正の連絡が本人にしか届かない。代理人が申請状況を確認できない。

こうしたシステムでは、法律上は代理申請が認められていても、実際には円滑な代理が困難になります。


総務省通知は、行政手続のデジタル化に当たって、行政書士による代理申請をシステム設計の段階から組み込むよう求めたものといえます。


◆行政書士の活用促進


総務省通知では、高齢化が進む中での行政のデジタル化など、社会経済情勢の変化に伴って代理申請のニーズが増加していると指摘しています。

その上で、行政手続が円滑に行われ、国や地方公共団体のコストを増大させないためには、関係省庁・地方公共団体が連携して、行政書士の活用促進に取り組む必要があるとしています。

行政書士の活用が、行政書士業界の利益のためではなく、住民・事業者の利便性向上と行政コストの抑制のために必要であると説明されている点が重要です。


◆無資格者の関与防止


通知では、行政書士又は行政書士法人でない者による関与を防止するための取組についても、引き続き実施するよう求めています。


改正行政書士法では、業務制限規定に「他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加えられました。

これにより、「コンサルティング料」「サポート料」「システム利用料」「紹介料」など、書類作成報酬とは異なる名目で金銭を受領すれば規制を免れられる、という解釈が成り立たないことが明確になりました。


また、両罰規定も整備され、違反行為を行った本人だけでなく、一定の場合には法人にも罰則を適用できるようになりました。

行政手続のデジタル化は便利さをもたらす一方、無資格者が本人になり代わって入力や申請を行うことを容易にする側面もあります。


だからこそ、電子申請の利便性と、適正な代理制度の確保を両立させる必要があります。


◆都道府県から市区町村への周知


都道府県宛ての通知では、各行政手続の所管部局だけでなく、都道府県内の市区町村にも通知の趣旨を周知するよう求めています。

この通知は、地方自治法第245条の4第1項に基づく「技術的な助言」とされています。

したがって、地方公共団体に対する法的な強制命令ではありません。

しかし、骨太の方針の閣議決定を受け、総務省自治行政局長名で発出された技術的助言です。地方公共団体が電子申請システムを新設・改修し、その運用を見直す際の重要な行政上の指針となります。


(3)特定行政書士の業務範囲拡大


骨太の方針の脚注では、改正行政書士法の内容として、特定行政書士の業務範囲の拡大も明記されています。

従来、特定行政書士が代理できる不服申立ては、行政書士が実際に作成した官公署提出書類に係る許認可等に関するものとされていました。

改正後は、行政書士が「作成することができる」官公署提出書類に係る許認可等へと対象が拡大されました。

これにより、当初の申請を本人が行った場合や、別の行政書士が関与した場合であっても、その申請が行政書士の作成可能な書類に係るものであれば、特定行政書士が不服申立てを代理できる可能性が広がりました。

これは、国民の権利救済という観点から重要な改正です。


許認可申請は、許可を得ることだけを目的とするものではありません。不許可処分、申請拒否、行政指導、審査の長期化などが生じた場合に、どのように対応するかまで含めて、国民の権利利益を守る必要があります。


行政書士は、申請書を提出した時点で役割を終えるのではなく、必要に応じて、その後の救済手続まで見据えた支援を行うことが期待されます。


(4)行政書士制度への明記は「権限の拡大」だけを意味しない


骨太の方針への明記は、行政書士制度に対する国の評価と期待を示すものです。


しかし、これを「行政書士の仕事が増える」「行政書士の権限が強くなる」という側面だけで受け止めるべきではありません。


社会的な役割が大きくなれば、それに伴う責任も大きくなります。


総務省の日行連宛て通知では、行政書士に対し、これまで以上に業務に精励し、その使命と職責を果たすことを求めています。


また、日行連に対しては、

* 行政書士の使命・職責について会員の理解を深めること

* 各種デジタル手続に必要な知識を研鑽すること

* 行政書士の資質向上を図るための研修等を進めること

* 地方公共団体その他の関係機関との連携を深めること

* 行政手続の円滑化と国民の権利利益の実現に協力すること

を求めています。


行政書士制度への明記は、行政側に対する要請であると同時に、行政書士側に対する要請でもあるのです。


◆行政書士が取り組むべき課題①――電子申請の実態把握


まず必要なのは、国や地方公共団体の電子申請システムの実態を把握することです。


「電子申請に対応しているか」という表面的な確認だけでは足りません。


代理人名を入力する欄があるか。行政書士であることを表示できるか。委任状を添付できるか。本人と代理人の双方に受付通知が届くか。補正の連絡を代理人が受け取れるか。代理人が申請履歴や審査状況を確認できるか。申請後に代理人を変更できるか。行政書士法人による代理に対応しているか。

こうした点を、手続ごと、システムごとに調査する必要があります。

建設業、産業廃棄物、農地、風俗営業、飲食店営業、法人設立、入管、補助金、民泊など、行政書士が関与する手続は多岐にわたります。


国の共通システム、各省庁の個別システム、都道府県の電子申請システム、市区町村独自のシステムでは、仕組みも運用も異なります。


行政書士会として現場の問題を集約し、具体的な改善項目として行政機関に伝えることが必要です。


◆課題②――自治体への具体的な提案


総務省通知を自治体に示して、「行政書士を活用してください」と要望するだけでは十分ではありません。


どの手続で代理申請上の問題が生じているのか。どの画面に代理人欄を設けるべきか。本人確認と代理権確認をどのように行うのか。委任状をどの形式で添付するのか。行政書士の登録情報をどのように確認するのか。補正連絡をどのように行うのか。


こうした具体的な運用を提案する必要があります。


電子申請システムの改修には、予算、仕様書、セキュリティ、個人情報保護、庁内調整などが関係します。


行政書士側も、現場の不便を伝えるだけでなく、行政職員、システム事業者、住民・事業者のそれぞれにとって使いやすい仕組みを考えなければなりません


行政手続の専門家として、法令と現場運用の双方を理解した提案を行うことが求められます。


◆課題③――デジタル対応能力の向上


行政書士がデジタル社会に貢献することを使命・職責として掲げる以上、行政書士自身がデジタル手続に対応できなければなりません。


必要なのは、電子申請システムの操作方法だけではありません。


電子署名、電子証明書、本人確認、代理権確認、アカウント管理、アクセス権限、パスワード管理、データの暗号化、クラウドサービスの利用、個人情報保護、サイバーセキュリティ、電子データの保存・廃棄など、幅広い知識が必要です


依頼者からIDやパスワードを預かり、本人のアカウントを使用して申請するような運用には、法的にもセキュリティ上も問題があります。

誰のアカウントで申請したのか。誰が入力したのか。誰が最終確認したのか。委任の範囲はどこまでか。申請データをどのように保管するのか。

こうした点について、行政書士会として標準的な実務指針を整備することも必要でしょう。


もう1点、行政書士会として会員に対し積極的な研修をする必要があります。前述の電子申請に対する幅広い知識に関しての研修を、ただちに実施すべきだと考えます。一方で、電子メールをはじめとする基本的なデジタルツールの利用に不慣れな会員が一定数存在することも、現実の課題として直視しなければなりません。

今回の法改正によって、情報通信技術の活用等を通じ、国民の利便の向上と行政運営の効率化に資するよう努めることが、行政書士の職責として明記されました。行政書士会が責任をもって、会員のデジタル対応を支援していくことも重要だと考えます。

個々の行政書士の自己研鑽に委ねるだけでなく、基本的な操作から情報セキュリティ、電子申請の実務まで、段階に応じた研修を行政書士会が速やかに整備する必要があります。 


◆課題④――無資格者関与への適正な対応


改正行政書士法によって業務制限規定が明確化されましたが、無資格者問題は、単に摘発や排除の対象として考えるだけでは不十分です。

まず、どのようなサービスが行われているのかを正確に把握する必要があります。


補助金コンサルタント、外国人支援事業者、民泊代行業者、建設業支援会社、ウェブ制作会社、システム事業者などが、どこまで事実上の書類作成や代理申請に関与しているのか。

他方で、非行政書士事業者であっても、経営支援、IT導入、翻訳、住宅宿泊管理、職業紹介など、それぞれ適法に行える業務があります。


重要なのは、適法な連携と、行政書士業務への違法な関与との境界を明確にすることです。


行政書士が名義だけを貸し、実質的な受任、本人確認、書類作成、内容確認を非行政書士に任せることがあってはなりません。

また、依頼者との直接の契約・意思確認・報酬関係を明確にし、行政書士が自らの責任で業務を遂行する必要があります。

無資格者排除を主張するのであれば、行政書士自身も名義貸しや不適切な業務提携を厳に慎まなければなりません。


◆課題⑤――特定行政書士制度の実質化


特定行政書士の業務範囲が拡大されたとしても、実際に不服申立てに対応できる行政書士が少なければ、制度改正の成果を国民に還元することはできません。

行政不服審査法、行政手続法、行政事件訴訟法、個別の業法、処分基準、審査基準、裁決例、答申例などについて、継続的な研鑽が必要です。

また、許認可申請の段階から、将来の不服申立てに耐えられる記録を残すことも重要です。


行政庁からどのような説明を受けたのか。どの資料をいつ提出したのか。補正の根拠は何か。行政指導にどのように対応したのか。処分理由は具体的に示されているか。


申請段階の記録が不十分であれば、後から不服申立てを行うことが難しくなります。


特定行政書士制度の実質化には、申請業務と権利救済業務を分断せず、一連の行政手続として捉える視点が必要です。


◆課題⑥――業務品質と職業倫理


行政書士の活用が進めば、行政書士の業務品質が、行政手続全体の信頼性に影響するようになります。

本人確認が不十分である。依頼者の意思を確認していない。虚偽の説明を前提に申請する。添付資料を確認しない。申請後の補正や照会に対応しない。個人情報を適切に管理しない。非行政書士に業務を丸投げする。


このような事案が増えれば、行政機関から見て、行政書士による代理申請そのものへの信頼が損なわれます。


行政書士会には、研修の充実だけでなく、苦情対応、指導、綱紀、倫理の確保を含めた総合的な品質管理が求められます。社会的な役割の拡大と、規律の強化は表裏一体です。


行政書士制度への期待が高まった今こそ、行政書士一人ひとりが、誰のための制度なのかを改めて考える必要があります。



(5)明記されたことを「成果」で終わらせないために


骨太の方針2026に行政書士制度が初めて明記されたことは、行政書士制度にとって大きな前進です。


これまで日本行政書士会連合会、日本行政書士政治連盟、各単位会、関係者が積み重ねてきた働き掛けの成果であることは間違いありません。


しかし、骨太の方針に記載されたこと自体が最終的な目的ではありません。


電子申請システムに代理人欄が設けられること。行政書士が適切に代理申請できること。高齢者やデジタル機器に不慣れな人が取り残されないこと。無資格者による違法な関与が防止されること。不許可処分などに対して国民が適切な権利救済を受けられること。

こうした具体的な変化が生じて初めて、今回の明記が国民にとって意味のあるものになります。


行政書士会は、国や地方公共団体に改善を求めるだけでなく、行政手続の現場で生じている問題を調査し、具体的な解決策を提案しなければなりません。

行政書士一人ひとりも、デジタル対応能力、専門知識、倫理、本人確認、情報管理、説明責任を高めなければなりません。



4 おわりに――期待にどう応えていくのか


骨太の方針2026は、日本が長年の投資不足を克服し、AI、科学技術、知的財産、地域産業、人材への投資によって「強い経済」をつくろうとする方針を示しました。


知的財産・コンテンツ分野については、文化振興や権利保護にとどまらず、日本の成長と海外市場の獲得を支える戦略産業として位置付けられています。


行政書士制度は、自治体AX/DXと持続可能な地方行財政基盤を支える制度として、骨太の方針に初めて明記されました。


明記されたことをきちんと、成し遂げていかなくてはなりません。

国民と行政の間に立つ専門職として、デジタル化の進展によって生じる新たな不便や格差を埋め、行政手続を円滑にし、国民の権利利益を守る。そのために、行政書士自身が知識と能力を高め、厳格な職業倫理を保ち、行政機関や他の専門家と連携していかなければなりません。


骨太の方針に行政書士制度が明記されたということは、国から行政書士に対して、「今後の行政と社会を支える役割を果たしてほしい」という期待が示されたということでもあります。


その期待に、私たちはどのように応えていくのか。


これからの行動こそが、行政書士制度への明記の本当の意義を決めることになるのだと思います。




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