top of page

【著作権】著作権法改正成立~レコード演奏・伝達権の創設と著作隣接権制度の新たな展開

令和8年6月17日、著作権法の一部を改正する法律が参議院本会議において可決・成立しました。


今回の改正は、実演家及びレコード製作者に対して、いわゆる「レコード演奏・伝達権」を創設するものです。


文化庁は「アーティスト等への適切な対価還元」と説明していますが、その本質は単なる権利者保護の強化ではありません。むしろ、長年にわたり指摘されてきた日本の著作隣接権制度の空白を埋め、国際的な著作隣接権保護の枠組みに日本を適合させる制度改革として位置付けるべきでしょう。


本稿では、改正の概要だけでなく、その背景にある国際条約や著作隣接権制度の沿革にも触れながら、今回の改正の意義と今後の実務への影響について考えてみたいと思います。


文部科学省

「著作権法の一部を改正する法律案」が参議院本会議で可決され成立しました



本稿では、改正のポイントについて記載したいと思います。


1.改正の概要


今回の改正では、商業用レコードが店舗や施設などで公に利用された場合に、実演家及びレコード製作者が二次使用料を受け取ることができる権利が創設されました。


具体的には、

・商業用レコードの公衆再生に係る二次使用料請求権

・商業用レコードの公衆伝達に係る二次使用料請求権

が、それぞれ実演家及びレコード製作者に認められることとなります。((第95条の2、第95条の3、第97条の2、第97条の3の新設)


ここでいう「公衆再生」とは、店舗や施設でCDや配信音源をBGMとして流すような行為を指します。

また「公衆伝達」とは、インターネット配信音源や放送等を受信し、店内スピーカーなどを通じて公衆に聞かせる行為を意味します。


もっとも、今回創設されたのは排他的な許諾権ではありません。利用者は個別の許諾を得なければ利用できないわけではなく、法律上は「二次使用料請求権」として構成されています。

そのため、権利者が利用を差し止めることができる権利ではなく、利用に対して対価を請求できる権利である点に注意が必要です。


2.著作隣接権制度の沿革


今回の改正を理解するためには、著作隣接権制度の歴史を振り返る必要があります。


著作権法が保護するのは、まず著作物の創作者である著作者です。しかし、音楽や映像などの文化は著作者だけでは成立しません。例えば音楽であれば、「作詞家」「作曲家」「歌手」「演奏家」「レコード会社」「放送事業者」など、多くの関係者によって社会へ届けられています。


そこで著作権法は、著作者ではないものの文化の伝達に重要な役割を果たす者に対し、「著作隣接権」という権利を認めています。昭和45年制定の現行著作権法では制定時から、「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」に著作隣接権が認められていました。もっとも、その保護内容は必ずしも国際水準に達していたわけではなく、特に商業用レコードの公衆利用に対する対価還元制度については限定的なものでした。

今回の改正は、その空白部分を埋めるものといえます。


3.ローマ条約とWPPT


今回の改正の背景には、著作隣接権に関する国際条約との関係があります。


著作隣接権保護の国際的な出発点となったのが、1961年のローマ条約(実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約)です。ローマ条約は、商業用レコードが放送又は公衆への伝達に利用された場合について、実演家やレコード製作者等に対する報酬制度を認める国際的な枠組みを定めました。


さらに、デジタル時代への対応として、1996年にはWPPT(実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約)が成立しました。WPPTは、インターネット送信等のデジタル利用を念頭に、実演家及びレコード製作者の権利保護を強化するとともに、商業用レコードの放送及び公衆への伝達に関する報酬請求権制度についても規定しています。


日本はこれらの条約の締約国ですが、WPPT第15条が定める報酬請求権制度については留保を行い、店舗BGM等に関する報酬請求権制度を導入してきませんでした。そのため、我が国の著作隣接権制度は、国際的な保護水準と比較すると十分とはいえない状況にありました。


このことは、海外における使用料の徴収・分配にも影響を及ぼしていました。


例えば、日本人アーティストの楽曲が海外の店舗や施設でBGMとして利用され、その国では実演家やレコード製作者に対する使用料の徴収・分配制度が存在していたとしても、日本国内に対応する制度が存在しないことを理由に、日本人の実演家やレコード製作者には分配が行われないケースがありました。


これは、多くの国が「相互主義」を採用しているためです。相互主義とは、自国の権利者に与えている保護と同程度の保護しか外国の権利者にも与えないという考え方です。そのため、日本国内に対応する権利や報酬請求制度が存在しない場合、海外で徴収された使用料であっても日本の権利者は受け取ることができませんでした。


この点については、文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会においても具体的な試算が示されています。文化庁資料によれば、日本にレコード演奏・伝達に係る報酬請求権制度が存在しないことにより、日本の実演家及びレコード製作者が海外から受け取ることができていない使用料は、年間約10億円から20億円程度と推計されています。


制度導入後は海外の管理団体との相互徴収・相互分配が可能となり、これらの金額が日本の権利者へ還元されることが期待されています。

今回の改正は、WPPTが想定する保護水準に日本の著作隣接権制度を近づけるとともに、海外との相互徴収・相互分配を可能とするための制度整備として位置付けることができます。文化庁が改正理由として「実演家等への適切な対価還元」や「音楽の海外展開の促進」を挙げている背景には、このような国際的事情があるのです。


4.JASRACとの違い


今回の改正については、「JASRACの使用料が増えるのか」「これまで支払っていた音楽使用料に上乗せされるだけなのではないか」といった誤解も見受けられます。

しかし、今回創設された制度は、JASRACが管理する著作権とは法的に異なる権利を対象とするものです。


JASRACが主として管理しているのは、音楽の著作者に認められる著作権であり、「店舗で音楽を流す際に問題となる演奏権」や「インターネット配信に関係する公衆送信権」、「CDやデジタルデータを作成する際に関係する複製権」などがこれに含まれます。そして、その使用料は主として作詞家、作曲家、音楽出版社等に分配されています。


例えば、店舗でヒット曲をBGMとして流した場合、その楽曲の作詞家や作曲家には著作権使用料が還元されます。しかし、その楽曲を実際に歌唱した歌手や演奏したミュージシャン、あるいは音源を制作したレコード会社については、従来の日本法では店舗利用に関して十分な対価還元の仕組みが整備されていませんでした。


これに対し、今回の改正で対象となるのは、実際に歌唱や演奏を行った実演家や、その音源を制作したレコード製作者に認められる著作隣接権です。著作権が「楽曲そのものの創作」を保護する権利であるのに対し、著作隣接権は「楽曲を社会に届けるための実演やレコード制作」といった活動を保護する権利であるという違いがあります。


そのため、同じ音楽利用であっても、著作者と実演家・レコード製作者では保護される権利の内容が異なります。例えば、一つの楽曲が店舗で利用された場合、「作詞家・作曲家に対する著作権使用料」と「歌手や演奏家に対する二次使用料」、さらに「レコード会社に対する二次使用料」というように、それぞれ異なる権利に基づく対価が発生し得ることになります。


したがって、将来的には店舗等において、「著作者側に支払われる著作権使用料」、「実演家に支払われる二次使用料」、「レコード製作者に支払われる二次使用料」という複数の権利処理が並行して存在することになります。もっとも、利用者が個々の権利者と直接交渉しなければならない制度ではなく、指定団体による集中管理が予定されているため、実務上は一定の簡素化が図られることになると考えられます。


5.指定管理者制度について


今回の改正において特に注目されるのが、レコード演奏・伝達権に係る二次使用料の徴収及び分配を担う「指定管理者」の制度です。(第103条の2~第103条の8の新設等)


改正法では、実演家及びレコード製作者が有する二次使用料請求権について、文化庁長官が指定する管理者のみがその権利を行使できる仕組みが採用されました。

これは個々の権利者がそれぞれ利用者に請求を行うのではなく、指定管理者が一元的に徴収及び分配を行うことによって、利用者の負担軽減と権利処理の円滑化を図ることを目的としています。


指定管理者の主な業務としては、二次使用料の徴収及び権利者への分配に加え、「二次使用料規程の作成」や「利用者団体との協議」、さらに料金体系について合意が成立しない場合の「文化庁長官による裁定手続への対応」などが予定されています。したがって、指定管理者は単なる徴収機関ではなく、権利者と利用者の間に立って制度全体を運営する中核的な役割を担うことになります。


もっとも、法律成立時点では、どの団体が指定管理者となるかはまだ正式には決定されていません。今後、文化庁において指定に関する手続が進められることになりますが、実演家及びレコード製作者の利益を適切に代表し、徴収・分配業務を安定的に遂行できる体制を有することが重要な要件になると考えられます。


また、制度の施行までには、指定管理団体の指定だけでなく、二次使用料規程の策定や利用者団体との協議なども必要となります。改正法は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令により定める日から施行されることとされています。そのため、今回の法改正によって直ちに使用料徴収が開始されるわけではありません。今後は、指定団体の指定、二次使用料規程の策定、利用者団体との協議、政省令の整備などが進められ、その後に制度の運用が開始されることになります。現時点では、具体的な施行時期や料金体系は未定であり、今後の制度設計の動向が注目されます。


6.権利者から見た注目点


権利者側にとって最大の関心事は、「誰が徴収し、どのように分配するのか」という点かと思います。


前述の通り、今回の制度では、文化庁長官が指定する「指定団体」が利用者から二次使用料を徴収し、権利者に分配する仕組みが想定されています。もっとも、現時点ではどの団体が指定を受けるのかは決まっておらず、今後の制度設計の中で具体化されることになります。


権利者が補償金(二次使用料)の分配を受けるためには、指定団体が整備する権利者登録制度や分配手続に従って、自らの権利情報を登録することが必要になると考えられます。音楽分野における著作権等管理事業者の仕組みと同様に、氏名・芸名、所属事務所、出演作品、権利承継情報などを適切に管理し、利用実績と結び付けられる状態にしておくことが重要になるでしょう。


また、実際の分配額は、どの作品がどの程度利用されたのかという利用実績の把握方法に大きく左右されます。利用者からどのような利用情報の提供を受けるのか、利用実績を個別に把握するのか、それとも一定の統計的手法によって分配するのかなど、今後策定される二次使用料規程の内容が注目されます。


さらに、前述の通り、海外でも多くの実演等の利用があります。海外の著作隣接権管理団体との相互協力や送金スキームの構築も重要な課題となります。国際的な権利処理の仕組みが十分に整備されなければ、日本の権利者が海外で利用された場合の対価回収にも影響が生じる可能性があります。


このように、新たな収益源が生まれる可能性がある一方で、分配の透明性や公平性をどのように確保するのか、権利者が円滑に補償金を受け取れる仕組みをどのように構築するのかが、制度の成否を左右する重要なポイントとなります。


7.利用者側の注意点


利用者側としては、今回の改正によって直ちに支払義務が発生するわけではありません。


今後、指定団体の指定や二次使用料規程の策定を経て制度が具体化されることになります。

もっとも、飲食店、ホテル、商業施設、フィットネスクラブなど、BGM利用が日常的に行われている事業者にとっては、新たなコンプライアンス上の論点となることは間違いありません。

また、国会審議では、中小規模の飲食店や小売店舗などに過度な負担が生じないよう配慮すべきとの意見も示されており、制度設計に当たっては利用実態や事業規模を踏まえた料金設定を求める声が上がっています。今後策定される二次使用料規程や料金体系において、こうした議論がどのように反映されるかも注目されます。

今後公表される料金体系や適用範囲について、継続的に情報収集を行う必要があるでしょう。



今回の改正は、一見すると音楽業界内部の制度改正のようにも見えます。

しかし、その実質は、日本の著作隣接権制度を国際標準へ接続するための重要な制度改革です。今後は政令、省令、指定団体制度、二次使用料規程など、多くの制度設計が進められることになります。

様々な場面で社会に影響を与える改正です。その動向を継続的に注視していく必要があるでしょう。


※本記載は投稿日現在の法律・情報に基づいた記載となっております。また記載には誤り等がないよう細心の注意を払っておりますが、誤植、不正確な内容等により閲覧者等がトラブル、損失、損害を受けた場合でも、執筆者並びに当事務所は一切責任を負いません。


Content Law Lab


→メールマガジンのご案内。

​主に行政書士の方に向けて、著作権や知的財産、コンテンツ産業に関する情報をお届けします。配信は不定期になります。(行政書士以外の方、行政書士受験生の方も登録可能です。)

登録は以下のリンク先のフォームから登録をお願いします。

​★登録フォーム https://forms.gle/HCuHq45BcRV8u3Wa6

 ◆お問い合せ/ご相談        

那住行政書士事務所では各種事業の法務、暮らしの法務について支援しております。よろしければ当事務所までご相談ください。


事務所で対面でのご相談の他、ZOOM等のリモート相談、お伺いしての出張相談も対応いたします。


電話/045-654-2334 



著作権に関して当事務所でお手伝いできること/費用等について

★著作権に関する様々な業務を承っております

・契約書の作成、チェック 等

 ・出版契約書

 ・利用許諾契約書

 ・出演契約書

 ・商品化、ライセンス契約書

 ・小説の舞台化に関する契約書

 ・秘密保持契約書

 ・著作権譲渡契約書

 ・請負契約書

 ・利用規約の作成


・著作権の利用許諾代行手続き

 ・言語、写真、イラスト 等


・所蔵資料の著作権調査

JASRAC、日本文藝家協会等への利用許諾申請代行

・音楽出版社、レコード会社等への利用手続き(隣接権)

・著作権者不明の場合の裁定制度申請 

・作家、クリエイターの遺言書作成

・著作権の絡む相続手続き

  ・出版社、著作権管理団体への届出

・作家・クリエイターへの補助金・助成金申請サポート

・社内のコンプライアンス研修

・社内の著作権利用マニュアルの作成

・ライセンス調査のサポート  

コメント


相続・遺言/各種許認可/契約書作成/起業支援/著作権

〒225-0024 横浜市青葉区市ヶ尾町  1050-1 エルドマーニ20 701

(田園都市線市が尾駅 徒歩5分)

​お問い合わせ

045-654-2334

営業時間:9:30~18:30  ​※不定休

© 2014-25 那住行政書士事務所 All Rights Reserved.

Nazumi Administrative Scrivener & Legal Services Office +81-45-654-2334 nazumi@nazumi-office.com

bottom of page