以前執筆した記事ですが、入学試験シーズンでお問い合わせが多いので、再掲します。
◆「残部」の「配布」に権利処理は必要か。
当事務所では著作権に関する各種手続きについて業務を行っています。その中で利用したい著作物の著作権について、お客様の代わりに書面を作成し、許諾申請を代行する業務を行っていますが、「入学試験における”残部”の取り扱い」について、ご質問を受けましたので、当事務所行政書士の考え方を、本ページでまとめたいと思います。
まず大前提として、本欄に記載することは、学校等、入学試験を行った主体である法人の利用に関してです。出版社や学習塾・予備校などが利用する場合は、パブリックドメインである場合等限られた場合を除いて、権利者への許諾申請は必要となります。
さて、高校や大学等の各種学校等においては、入学試験を行ったあと、次年度の受験生に対し当該入試問題を提供したり、また、学習塾等からの求めに応じて、入試問題を提供したりする場合があります。その際、それぞれ渡す入試問題については……
1)実際に入学試験を行った時、印刷したものの「残部」を配布する場合
2)配布用に新たに印刷する場合
とがあります。
このうち2)については、パブリックドメインである場合等限られた場合を除いて、権利者への許諾申請が必要になることについて、争いは無いと思います。
問題は1)の場合です。
著作権法の条文をそのまま解釈していくと、1)の場合は、許諾を個別にとらなくとも、配布することが「合法である」とする考え方があります。
著作権法第36条1項の規定ですが、
「公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」
とあります。
この条文の解釈のなかで
「試験又は検定の目的上必要と認められる限度において」 「複製し、又は公衆送信~」
とあります。
このうち「公衆送信」においては、試験が行われている期間を超えて、公衆送信されることが、 「必要と認められる限度」を「超える」ことについて概ね、争いはありません。
つまり、試験の間のみの公衆送信を定めた規定といえます。
「複製し」の部分ですが、試験を行うにあたっては、当該試験の受験生分のみならず、
当然、一定程度の「予備」を印刷していることが一般的であるかと思います。そうすると「必要と認められる限度」の「複製」は受験生分+αということになります。
ここで36条1項の規定により合法的に「複製」されたものについては、
著作権法第47条の7により
「……第三十六条第一項、……の規定により複製することができる著作物は、これらの規定の適用を受けて作成された複製物(……)の譲渡により公衆に提供することができる。」
とあるため、合法的に「公衆に提供することができる」という解釈をすることができます。
ただしここで合法と解釈される場合でも、36条1項の規定には「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」とありますので、部数が多い場合は、この規定が適用されないと考える必要があります。
参考までに、言語の著作物を多く管理する「公益社団法人日本文藝家協会」では、入試問題について以下のような要望書を公表しています。
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