今まで「大人」の仲間入りは「20歳」でしたが、その常識が大きく変わりました。2022年4月1日から、「18歳」からが大人となりました。これは民法が改正されることによるもので、世界の国では多くの国が18歳を成年としていること、また近年、公職選挙法により選挙権を有するとされる年齢が18歳に引き下げられたことなどを受け、市民生活に関する基本法である民法においても、18歳以上の人を大人として取り扱うのが適当ではないかという議論が行われ、引き下げられることとなりました。
我が国では1876年(明治9年)以来、20歳が成人とされてきたので、約140年ぶりの大改正となります。
【参考】世界の主な国の成年年齢
イギリス 18歳
フランス 18歳
ドイツ 18歳
アメリカ 40州のうち37州が18歳
中国 18歳
シンガポール 21歳
ニュージーランド 20歳
エジプト 21歳
1.いつから変わるのか
今回の法改正により、「成年」になる日に影響が出る方々は「2002年4月2日以降」に生まれた方々となります。それ以前の誕生日の方は、改正前の法律の通り、20歳になる日が「成年」となる日となります。
具体的には以下の通りです。
2002年4月2日から2003年4月1日生まれ
→2022年4月1日
2003年4月2日から2004年4月1日生まれ
→2022年4月1日
2004年4月2日以降生まれ
→18歳の誕生日
2.何が変わるのか
「成年になる」ということによる一番大きな変化は、「契約が自分で出来る」という点にあります。またこのことは「親の親権に服さなくなる」ということでもあります。
つまり成年になることにより、親の同意を得なくても様々な契約が出来ることとなります。具体的にはどのようなことが出来ることになるのか、主なものを上げると、以下に記すようなことが、成年になるとともに出来ることとなります。
「契約が自分で出来る」ことによる影響
・携帯電話を購入することが出来る
・アパートなどを借りる
・クレジットカードを作成する
・ローンを組む
「親の親権に服さなくなる」ことによる影響
・自分の住む場所を自分で決めることが出来る
・進学や進路を自分の意志のみで決めることが出来る
「その他」の影響
・10年有効のパスポートを取得することが出来る
・行政書士、司法書士などの国家資格について、試験に合格すれば登録することができる。
・性別変更審判の申立を行うことができる。
「結婚」について
・男女とも結婚できる年齢が18歳に(これまで女性は16歳、男性は18歳でした)
3.変わらないことは
成年年齢が18歳に引き下げられても、変わらないこともあります。
「変わらないこと」について
・飲酒が許される、喫煙が許される年齢はこれまでと変わらず20歳です。
・競馬、競輪、オートレースなどの投票券を買い遊ぶことができるのも、変わらず20歳からです。
・養子を迎えることができるもの変わらず20歳からです。
・大型・中型自動車運転免許の基準も従来と変りません。例えば大型自動車の場合21歳以上、運転経験3年以上という基準のままです。
また法律により左右される事柄ではないですが、「成人式」も多くの自治体で、その年度に20歳になる方を対象とする、これまでと同じ方式で行うところが多いようです。ちなみに那住行政書士事務所のある横浜市は、来年以降も20歳を対象に成人式を行うこととしています。
4.契約について
未成年者が「契約」をするためには、親権者の同意が必要です。仮に親権者の同意無く契約した場合は、民法の規程により、その契約は取り消すことができます。このように未成年者を保護するための規程が、民法には用意されています。
しかし成年に達するとこの保護が無くなります。契約が自由に行えるということですが、その自由には「責任」も伴います。
契約には様々なルールがあるので、安易に契約を交わすと後々トラブルに巻き込まれたり、よけいな責任を負わなくてはならなくなります。
そのようなトラブルに巻き込まれないようにするために、契約に関する知識を身につけておくことが必要です。不安がある場合には、親や信頼できる大人に相談することも重要です。
まわりにすぐ相談することが出来る人がいない場合専門家を頼ることも良いと思います。行政書士をはじめとする法律の専門家は、全国各地で無料相談会なども実施しています。商品の購入などでトラブルになった場合は「消費者ホットライン188」という電話相談の窓口もあります。全国どこからでも188に電話すれば、相談窓口に電話がつながります。
新たに成年を迎える方が、周りにいる場合は、大人の方からちゃんと「困ったとき、悩んだ時はすぐに相談すること」とアドバイスをすることも大事なことだと思います。
5.養育費について
今回の成年年齢引き下げで、話題になっていることの一つが既に締結している離婚協議書において定めている「養育費」についてです。
子どもが未成年者のうちに両親が離婚してしまった場合、離婚協議書等において養育費の定めを決めているケースが多いかと思います。
その決め方について例えば「子どもが20歳になるまで」とか「子どもが大学を卒業するまで」などというように定めている場合は問題が無いかと思いますが、「子どもが成年に達するまで」と定めている場合どうなるのか、専門家の間でも意見が分かれています。政府が作成する「政府広報オンライン」においては「例えば<子供が成年に達するまで養育費を支払う>との取決めが……(略)……成年年齢が引き下げられたからといって、養育費の支払期間が<子供が18歳に達するまで>ということになるわけではありません」と記載されています。
しかし争いとなった場合、どのように判断されるかわかりません。今後は、明確に終期を定める協議書を作成することが望ましいと考えます。
6.成年年齢の引き下げは是か非か
成年年齢の引き下げが間近となった2月ごろから、SNS上や一部報道において、一部政治家からの問題提起をもとに、公衆道徳上有害な業務に、18歳、19歳が巻き込まれることになると、話題が上がっていました。この件は問題か問題で無いかと言えば、間違いなく問題であると言えるでしょう。
その他、いろいろ変わること。 その他にも今年はいくつか重要な法改正の施行が行われます。今後予定されていることをいくつかご紹介します。 ▼事業者に内部通報窓口設置を義務化(6月1日) 事業者に重要な改正の一つが、公益通報者保護法の改正による、内部通報窓口の設置義務化です。従業員数300人以下の中小企業者は「努力義務」となっていますが、それ以外の事業者は、内部通報に適切に対応するため、必要な体制の整備(窓口設置、調査、是正措置等)が義務づけられることとなります。また、保護される通報者が、「労働者」から「退職1年以内の退職者」「役員」に広がります。社内のコンプライアンス体制の構築が必要となります。 ▼株主総会資料の書面郵送が不要に(9月1日) こちらも事業者には重要な改正の一つ。現行法では、株主総会の資料は原則、郵送で送付しなければならず、インターネット等を用いて提供するためには、株主個別の承諾が必要となっています。このことが、株主に対して、資料をアップロードしたURLなどを書面で通知すれば、それでOKということになります。その他取締役の報酬に関する規程や、社債の管理等に関する規程が変更となります。 ▼インターネット上の匿名投稿。敏速に特定可能に(秋ごろ) インターネット上の匿名投稿による、誹謗中傷に対応するため、発信者情報開示について、非訟手続きによる新たな裁判手続きが導入されます。簡単に言うとこれまでよりも簡単な手続きで、権利侵害に対する救済が図られるようになります。 重要な法改正の情報は www.nazumi-office.com からもお知らせしております。たまに、ご覧ください。 しかしこのような問題提起は、法の施行日間近にマスコミ受けを狙って行われるようなものではなく、もっと以前に法改正を議論する段階で行われるべきものであると思います。
現在、大学に進学せずに社会人となる人が一定数いる以上、今回の改正は理にかなった改正でないかと、思っています。
ただ、日本の義務教育、そして続く高等学校においても「法」についての教育はかなり限られています。契約のルールなど「法律」に関するルールをしっかりと教える「法教育」をさらに拡げていくことが、今後はさらに重要となってくるのではないでしょうか。
参考:政府広報オンライン/法務省民法改正Q&A/法務省「諸外国における成年年齢等の調査」
【法務通信第1号 令和4年4月15日 発行より】
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