
大学時代、長く書店でアルバイトをしていました。そして大学を卒業してしばらくの間は、紙媒体の仕事をしていました。そのため昨今の紙媒体の苦境を見ていると、心苦しく感じることがあります。
読んでいたスポーツ新聞が休刊になりました。
週刊だった雑誌は月2回になり、月刊になり、そして隔月刊に
町の書店も、ほとんど見なくなりました。市が尾には3年ぐらい、もう書店はありません。
今朝の読売新聞朝刊を見て驚きました。こういう記事が1面トップになるのかと。さらに中面でも扱っており合計4ページ。メディアが興味を持って、「書店が減少している」ということに、問題意識を持ってくれることは、大変にありがたく、貴重なことだと思います。この記事で知りましたが、国も危機感を持ってくれており、
「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」
というのを、昨秋まとめ、経済産業省のホームページに掲載しています。
今回の記事で、読売新聞は講談社と一緒に「書店活性化へ向けた共同提言」をまとめ発表しています。読んでみてなるほど、と思う点もありましたが、一方で、少し疑問に思う点もありました。
―書店減少の根本的原因への解決に、果たしてなるか?
近年、書店数の減少が著しく進行しており、全国の中小書店の経営が厳しさを増しています。今朝の読売新聞でも、書店の減少を憂慮し、国や自治体が積極的に支援すべきだという論調で記事が掲載されました。
提言のうち、「書店のDX化」や「キャッシュレス負担軽減」といった指摘は確かにその通りであると思います。しかしこれは書店への提言というよりかは、中小小売業全体に共通していえる指摘ではないでしょうか。
提言を読み解いて行くと、外国との比較等を通じて、国や自治体の積極的関与が、様々な点で促されています。このことはつきつめると、書店振興にもっと税金を投入すべきだ、ということになります。
読売新聞社も講談社も、メディアではありますが同時に、書店に品物を卸している、書店業界のステークホルダーの一角です。そうした視点から、自身の関係する特定の業界(書店)に対し、税金を投入するという提言が、果たして多くの人に受け入れてもらえるかどうかは、もう少し、提言発表前に考えてもよかったんじゃないかな、と記事を読んで感じました。
市場原理の観点、公平性の観点、そして長期的な持続可能性の観点からこの提言をもう少し考えていきたいと思います。
―市場原理と公平性の観点
経済においては、市場原理に基づいて、需要が高い業界は成長し、需要が減少した業界は縮小するのが自然な流れです。書店数の減少は、単に経営者の努力不足により起こった減少ではなく、 消費者の購買行動の変化やデジタル化の進展により、進んだ減少ではないでしょうか。つまり人々が、情報の受取に対し、紙媒体ではなく、電子書籍をはじめとする様々な電子媒体の選択が進んだ結果、紙媒体を扱う書店が減少していったことは、市場の構造的変化の結果であるとも考えられます。
このような状況において、 書店のみを税金で支援することは、市場の自然な淘汰に逆行するものと言えないでしょうか。もし書店が特別に公的資金を受けられるならば、市場の構造的変化で淘汰されつつある他の業界も支援すべきではないかという議論が生じます。
フィルムカメラの現像店、レンタルビデオ店、レコード・CDショップ、町の文具店なども同様に市場環境の変化で苦戦しています。これらの業種は特に支援されない一方で、 書店だけが特別に公的支援を受ける正当な理由があるのか という疑問が残ります。
―税金投入の効果と持続可能性
仮に政府や自治体が書店に税金を投入し、補助金や助成金を支給したとしても、それは一時的な延命策に過ぎません。 人手不足、デジタル化の影響、消費者のニーズ変化、書店が本質的に抱える課題を解決しない限り、持続的な効果は期待できません。
経済産業省の報告書においても、 「書店経営の厳しさの要因は、多様な原因が絡み合っており、単なる資金援助では根本的な解決にはならない」 という指摘がされています。たとえ一時的に財政支援があったとしても、消費者が書店を利用し続けなければ、国等による支援が終了した段階で、再び経営難に陥るのは避けられません。
特定の業界に税金を投入することは、他業界との公平性の問題を引き起こす可能性があります。過去には、不況時に 金融機関への公的資金投入 が行われましたが、これには 「なぜ金融機関だけが優遇されるのか?」 という強い批判がありました。同じように、 「書店だけが特別に支援を受けるのは不公平ではないか?」 という声が上がる可能性があります。
―持続可能な書店経営を模索していくために
とは言いつつも、書店の持つ文化的価値、そして紙媒体というメディアとユーザー・顧客をつなぐ最終的接点であるという点を忘れてはいけないと思います。だからこそ安易に国等の支援を促すのではなく、持続可能な書店経営の可能性を模索していかなくてはならないのではないでしょうか。
例えば「デジタル技術の導入支援」です。書店がオンライン販売を強化し、電子書籍の取り扱いを増やすなど、デジタル時代に対応できる支援を行うなどの施策は有効では無いかと思います。また今回の提言では「書店と図書館の連携」が謳われていますが、この枠組みをもっと拡大し、学校や児童館など地域コミュニティとの連携促進も考えていくべきではないでしょうか。そして何よりも「読書推進活動の支援」です。直接的な補助金ではなく、読書文化を広める政策を推進し、間接的に書店への需要を生み出すというような施策も必要ではないかと思います。
そしてもう一点、書店・出版業界が抱える構造的な問題についても、改めて検証してみるべきではないでしょうか。1000円の本を売っても書店の取り分は200円、作家の取り分は100円です。書店に無い本を注文すると、2週間、3週間平気で待たされます。まったく手にとられなかった本が、どんどん返品されることもあります。読売新聞がメディアであるならば、こうした点もしっかり検証してもらいたかったなと思いました。
ぐだぐだ書きましたが、しょせん外野の戯言かもしれません。
しかし書店の減少は確かに文化的損失を伴うものです。私は本が好きですし、本屋も好きです。だからこそ安易な戦略ではなく、真剣に書店文化を次世代に残す方策を考えて欲しいと思うのです。行政としても、 文化支援と経済合理性のバランスを取りながら、広く国民に利益をもたらす政策を検討することが求められます。今後の議論の行方を注視し、書店の未来に期待していきたいと思います。
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いろいろ見やすく、サイト更新しました。
「行政書士・特定行政書士 那住史郎のブログというかそんなようなもの/法務通信」
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